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秋田のジャズ喫茶、40年の哲学~ジャズスポット「ロンド」

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■オーディオ-リノベーションした米蔵の店舗

-スピーカーから出る音が生々しいですね

秋田経済新聞那珂「このスピーカーは、見た目はスピーカーユニットを4つ使った4ウエイだけど、実質2ウエイで鳴らすように構成している。今の音に落ち着くまでには、10年以上かかったし、その間には自然界の音も研究した。ただ、どうしてもオーディオで自然の音を再現することはできない。たとえ何億円のお金をかけても無理だと思った。私は映像の仕事もしているが、映像は場面を切り取って表現するもの。例えドキュメンタリーを制作したとしても、映像になった時点で生そのものではなくなる。音の追究も、生の音を再現するという固定観念からいったん離れて考えるといい。自然界にある音のエネルギーの『エッセンス』を見極め、それをオーディオでどう引き出そうかと考えた」

-土蔵を改装した店舗も音響に貢献していますか?

秋田経済新聞

那珂「この蔵は明治20年に築造された米蔵で、その後は倉庫として使われていた。土蔵は音響的にも優れている。この蔵は土とワラを混ぜた土壁でできているが、適度に音を吸収するので、音をうるさく感じにくい。大きなボリュームでCDをかけたとき、お客さん同士が会話できるというのもいい。ジャズ喫茶として私が狙ったのは、そういう音だった。以前は郵便局の2階に店舗を構えていたが、どうしても苦情が来るので(笑)、移転は防音性に期待した側面もあった。移転時、蔵の防音性がどのぐらいあるかチェックするため、数人の友人に蔵の外に立ってもらって、私がスピーカーから大きな音を出す前に蔵の中から『いくぞ!』と声をかけたら、外にいる友人の『OK』という声が聞こえた(笑)。内と外で普通の会話ができるぐらい防音性がない(笑)」

-(笑)

那珂「かつての大地震の影響だと思うが、よく見ると、日の光が蔵の中に差し込むぐらい、柱と壁の間のあちらこちらに隙間が空いていた。隙間を埋めたら防音の問題は解決した(笑)」

■ライブイベント-明日に残せないものはやらない

-かつては海外の著名ジャズメンも呼んでいたそうですね

秋田経済新聞那珂「ピアニストのビル・エバンスも亡くなる前年の1978(昭和53)年に来店した。でも、有名ミュージシャンのライブは、イベントを開催する側から見ると台風のような一過性のもので、いつしか違和感を感じるようにもなった。たとえ全国に名の知れたミュージシャンでも、地方公演でのプレーの意識が希薄な場合も少なくなかったし、一般に給料が今ほど高くない時代に、チケットが3,000円もした。日ごろ店に通ってくれるお客さんの負担も小さくなかった」

-なるほど

那珂「20年前からは、地元のジャズメンを中心に月1回ペースでライブを行っている。観客がいないときもあったが、ジャズ喫茶としてのメッセージを出す意味もあるので、止めずに継続してきた。店内でスモークを炊いたり、店内に大きなスクリーンを設置して映像を投影したり、音と絵ということを意識しながら試行錯誤もあった」

-最近、秋田でもライブイベントが増えましたね

那珂「私の基本的な考え方は、『やらないよりは、やった方がいい。でも、明日に残せないなら、やらない方がいい』。明日に残せないものは、『あれは良かったね』と思い出を語るだけのものになってしまう。祭りとしてやるのであればいいが、イベントとの違いを考えることも必要。地元で活動するこれからの若い人には、私があっと驚くようなことをやってもらえればうれしい」

■先人への感謝と自身の哲学-地方のジャズ喫茶としての40年

-この40年、秋田のジャズスポットにも変遷があったと思います

秋田経済新聞那珂「秋田には、今でもファンの間で語り継がれている『もなみ』という有名なジャズ喫茶もあった。そういう文化を育んできた先人がいるから、当店もやってこられたと思う。そんなに儲かる商売ではないが(笑)、自分が1番というような考えはなくて、やはり、先人に感謝する気持ちは大切だと思う」

-地方のジャズスポットということについて、何かお考えはありますか?

那珂「地方では、判断力が鈍るように感じることはある。これは、都会がいいという意味ではない。中央にあるものだからというだけで、疑うことなく受け入れてしまう傾向は良くない。中央の流行を追いかけ、自分でしっかり判断しないままなら、そこで終わる。それ以上のものにはなれないでしまう。ある人が、東京で名を上げたから、次はニューヨークに行くって、なんだかな…。それが漠然としたステップアップのつもりなら意味はない。どこにいたって同じだから、自分の感性で考えたことこそが新しいぐらいに自信を持ちたい」

-逆に自分に自信がないとできないことですね

那珂「若い人にも、もっと自信を持ってほしい。例えば、店をやるためには、自分の『哲学』さえあればいいと思っている。自分が信じてやることに、正しいということも間違えているということもない。仮に間違っていたことだったとしても、ぶれずに進んで行けば、いつかは正しくなる。私も仕事で東京に呼ばれることもあるが、私が負けないのは東京を追いかけないから。たとえ変人と言われても」

-那珂さんは変人と言われますか?

那珂「何度も言われる(笑)。そこで自分を見失わないこと」

■「ロンド」のこれから-ぬるいことはやらない

-飲食メニューにもユニークなものがありますね

秋田経済新聞那珂「当店では秋田の地ビールも飲めるが、自慢のチーズメニューもある。最近話題の花畑牧場の師匠でもある岡山の吉田牧場のチーズ。東京でも限られたレストランでしか扱っていない貴重なもの。当店では、吉田さんの奥さんが秋田出身という縁で特別にメニューに上がっている。東京以北ではほとんど食べられないんじゃないかな」

-喫茶店として昼の営業がないことを惜しむ声も聞かれます

那珂「映像の仕事の方が忙しくなって、1997年の11月からは夜間のみ営業している。でも、年齢的にだんだん映像の仕事は少なくなってくると思うので、昼間も再開したいと思っている。これから秋田は高齢化が進んでいくので、ゆくゆくは高齢者向けの刺激的なジャズ喫茶として」

-「高齢者向けの刺激的なジャズ喫茶」っていいですね

那珂「ぬるいことをやっちゃだめ。ガーンといかないと(笑)」

-ありがとうございました。

秋田経済新聞

【インタビューを終えて】

3,000枚以上のCDライブラリー中、那珂さんの「座右の銘盤」はマイルス・デイビスの「カインド・オブ・ブルー」。疲れたとき、収録曲の「ブルー・イン・グリーン」を聴いて英気を養うと話す。秋田市民が自慢できる「ジャズ喫茶」として、遠くない将来に昼間の営業が再開される日を待ちたい。

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