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看護師辞めて、起業した。~ 山田綾子さん #02/すきかちっ Vol.6

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記事提供:すきかちっ

生まれたその瞬間から人は終わりに向かって生き始め、誰もが老いていく。赤ちゃんの時のように歯が無くなったそのときでも、天井から吊るされたモビールをジッと見つめていたあのときのように寝たきりになったとしても、残された楽しみの一つは「食事」ではないだろうか?食べることは、生きること。山田綾子さんが考える「食」の大切さとは?

子育てで悩んだら、しっかり分析

Matirog「育児を学問として捉え、多胎児の子育て経験を生かしながら、同じ悩みを抱えるお母さんたちをサポートする山田さんは、生きた教科書のようですね。子育てラボ『hateao(はてあお)』は、多胎児の保護者のみ参加できるんですか?」

山田「多胎児の保護者に限らず、育児に大変さを感じているご家族はたくさんいますので、子育てラボ『hateao』では、そういう方たちのコミュニティーを作ることを活動内容に加えました」

Matirog「幅広く問題に対応できるように活動内容を拡張されたんですね」

山田「私が代表をつとめる多胎サークル『ひなっこクラブ』は、優秀なスタッフに恵まれたお陰で、今はその方々に仕事を任せられるようになりましたので、今年から少しずつですが『hateao』を通じて、より多くのお母さんやお父さんたちのサポートができるようになってきました」

Matirog「より多くのお母さんお父さんと関わり、視野が広まったことで、山田さんご自身の育児でも新たなことが見えてきたのではないでしょうか?」

山田「自分の子どもが年齢を重ねるごとに、私も新たな悩みが出てきます。その第1段階が、小学校へ上がることです」

Matirog「小学校へあがる年齢になると、子どもでも異性を意識したりしますもんね」

山田「特に女の子はませていますから。おそらくうちの子どもたちにもそれなりに『恋バナ』的なものがあるのかな、と」

Matirog「双子だと、親としてもその辺の悩みごとは倍になるのでは? バランスを取りながら悩みを聞かなければいけませんよね」

山田「恋バナくらいであれば平和な悩みですが、学校で一人ぼっちで遊んでいる様子を、双子の兄弟のどちらかが見てしまって、そういう話を子どもから聞くと辛くなります。私が子どもたちに対して辛い気持ちになるように、ほかのお母さんたちも同じようにつらいはずです」

Matirog「山田さん自身が抱いた悩みを分析して、次のお母さんたちに生かしているんですね」

山田「分析することが好きなので、学校でどのような状況で一人だったのか、その時先生はどこにいたのかなどを、まずは子どもに聞きます。子どもたちから得られなかったことは、機会があれば先生にも直接話を聞いてみて、なぜ一人ぼっちだったのかを私なりに考えてから子どもたちとその事について話すようにしています。頭ごなしに怒ったり、かわいそうだと言ったりはしません。なぜなら、子どもたちは、実際はそう思っていないかもしれないからです。たとえ子どもたちが悪いことをしたとしても、それは成長のきっかけかもしれません。大人が頭ごなしに怒ってしまう気持ちも分かりますが、大事なのはその時の子どもたちの心の状態です。それを親としてきちんと分析すれば、怒る回数も減っていきます」

Matirog「正確な情報を知ることによって、無駄に怒ることはなくなるんですね。山田さんにはいろんな人の気持ちに寄り添うスキルがある、と僕は感じています。しかし、正直いろんな人の感情に寄り添うというか同調してしまうと疲れませんか?」

山田「疲れますよ(笑)。こちらに受け止める元気がないときは正直『今日は誰とも話をしたくないなぁ』なんて日もありますね」

Matirog「でも山田さんには『山田さんなら私の話を全て聞いてくれそうだ』と思わせる、そんな雰囲気があります」

山田「最近はご高齢の方にもよく話しかけられます。先日銀行のATMに並んでいたら、後ろにいたおばあさんがため息をついていたので、チラッと見てしまったところ、そのおばあさんが『生活が苦しかったんだ』と私に話し始めたんです」

Matirog「初対面なのに唐突な身の上話ですね」

山田「『生活が苦しかった』と言われてしまうと、放っておけずに、思わず『どうしたんですか?』と聞いてしまいまして。どうやら年金の支給日だったようで、その日を楽しみにされていたようです。それからは、次から次へとおばあさんの悩み相談となりました」

Matirog「そのおばあさんは、どのような悩みごとを話されたんですか?」

山田「『引き落としがあるけれど、口座の残高が足りずに引き落とされなかった』とか『病院にも行けなかったので、お金を引き出したら病院へ行く』といったような話をされていました」

Matirog「分かります。山田さんには、つい悩みを打ち明けたくなる雰囲気もありますよ」

山田「そうなんでしょうか…。こういう場合、私は悩みを聞いても、アドバイスはせずに話をただ聞くだけです。なぜなら、アドバイスをしても解決するのは結局本人で、悩んでいるところに不要な情報を与えてしまうことで、余計に混乱させてしまう恐れもありますからね」

Matirog「優秀なカウンセラーもアドバイスはあまりせずに、聞き役に徹するそうですよ」

山田「私も基本的には聞くことに徹しますが、相手から答えを求められた場合は『あなたはどうしたいですか?』と逆に問いかけて、ご自身で答えを見つけられるように促しています」

Matirog「相談するよりも、相談される側のほうが疲れますよね。でも相談役は山田さんの天命だと思います!」

乳幼児も高齢者も食べ物は同じ!?

Matirog「現在は『hateao』だけではなく、秋田食介護研究会秋田市支部の『あふか』の代表もしていますが、看護師経験を生かして活動されているんですか?」

山田「異業種交流会で、歯科医師の方がゲストスピーカーだった会があったんです。その時にちょうど、私は離乳食の食べさせ方で困っている親御さんにどんなふうにアドバイスしたらいいのかと悩んでいましたので、お話を聞こうと参加しました。そこでその先生と話が合って、私がやりたいことをお伝えしたところ、『あふか』を立ち上げることになったんです。この会では、高齢者が食べるものを考えることが基本ですが、実は乳幼児も高齢者と食べるものはほとんど同じです。違いは、乳幼児の場合、口や飲み込みの機能は成長とともに向上していきますが、高齢者の場合は少しずつ機能が低下していくところ。ただ、柔らかく飲み込みやすい食べ物という共通点があるので、これを生かして、乳幼児も高齢者も、同じ食卓を囲んで同じ物を食べられるメニューを考えたら面白いなと思ったんです」

Matirog「乳幼児と高齢者が一緒に食べるという、時間の共有だけに留まらず、食べ物自体も共有するという考えですか! 食べ物の形状が同じだからこそできることですね」

山田「私の中では大発見でした。例えば、私たちがおいしいものを食べているのに、自分のおじいちゃんおばあちゃんがあまりおいしくないものを食べていると、それだけで少し申し訳ない気持ちになりますよね。離乳食を食べる子どもにとっても、高齢者にとってもおいしい食べ物であれば幸せなんじゃないかなと、みんなで一緒に食卓を囲めて、安全で安心な食べ物を提供できれば、もっとコミュニティーが広がるんじゃないかな、と考えました」

Matirog「自分の家族に置き換えて想像しても、夢が広がります。僕の父親も間もなく70歳ですので、ゆくゆくは介護も必要になっていきます。そうなったときに、わが子に離乳食を作って食べさせている経験が生かされますね」

山田「やはり、最後まで口から食べることができる人は元気です」

Matirog「僕もそう感じますが、どうしてでしょう?」

山田「食べ物を食べるときには、これは『チョコレート』で、これは『ご飯』…のように、目から得た情報を頭で考えているはずなので、脳も活性化しているのではないでしょうか。聞いた話ですが、お寿司を食べたいという高齢者がいたのですが、その方は当時、咀嚼・飲み込みの機能の関係で、おかゆしか召し上がれなかったそうです。そこで、おかゆを酢飯にして、おかゆの上に具をのせてちらし寿司のようにしたところ、それが本当においしくなかったということなんですよ。通常お寿司であれば、固形を想像しますが、それを食べやすいようにおかゆ状態にしてしまうと、頭でイメージしているものと味にギャップが生まれてしまいます。やはり食べ物は見た目もとても重要ですね。食べ物を食べるときは、頭で考えている部分が多いのだと思います」

食の処方箋

Matirog「乳幼児と高齢者向けの食べ物の可能性はさらに高まっていきそうですね。『あふか』では、ほかにどのような活動をされているんですか?」

山田「とっておきの日に食べるごちそうレシピの開発をしています。乳幼児から高齢者まで、安全で安心して食べられるメニュー開発に加えて、そのメニューを飲食店でも提供してほしいと思っていますので、飲食店へアプローチしていく予定です。食事の形態は高齢者によってさまざまですので、薬の処方箋のように、食の処方箋を作成したいと考えています。障害を持っているお子さんや、介護度の高い高齢者が、食の処方箋を見せることで、レストラン側がお客さまに合わせた形状の食事を提供できるようになるのではないかと期待しています。そうなれば、食に関しての外出苦が減るのではと考えています」

Matirog「アレルギーの有無や、食べ物の硬さなどの処方箋ということですよね」

山田「まだ試行錯誤の段階ですが、ゼリー状やペースト状のように飲み込むための目安となる形状や、好き嫌いなども処方箋に加えたいですね。服用しているお薬によっては、食べてはいけないものがありますので、使ってはいけない食材も記入出来たら役立つだろうなと思います」

Matirog「食の処方箋があれば、僕の父親が将来的に介護が必要となった場合、飲み込み具合や塩気の加減などの希望を簡単に伝えることができますね」

山田「口頭で伝えるのも大事ですが、処方箋として形に残っていると安心にもつながります」

Matirog「食事の制限があってやむを得ず旅行や食事に行けなかったり、遠慮していたり、というおじいちゃんおばあちゃんたちも喜びますよね。進んで出かけられるようになるし、僕たちも誘えるようになります。食って大事ですね」

山田「『あふか』で学んだことは、食べることは命の根源であり、私たち人間や生きているもの全てにとって、必要な行為である、ということでした」

Matirog「食べることは命につながるんですね」

山田「食の処方箋の対象は障害の有無に関わらず、乳幼児から高齢者までです」

Matirog「多胎家族の相談に乗ったり、介護が必要な方たちのケアを考えたりなど、幅広く社会を捉えていらっしゃいますが、山田さんにとって理想の社会はどのようなものでしょうか」

山田「私にとって理想の社会は、1日3食食べられることにつきます」

Matirog「世界には満足にご飯を食べられない国も存在しますよね。日本国内でもさまざまな事情により満足に食事をすることができない家庭もあります」

山田「食事を満足に食べることができにくい方々を支援する団体の方から、色々教えてもらっている段階のため、深くはお話しできませんが、食べるという行為は幸福へつながると確信しているので、少しでも多くの子どもたちが食べ物に困らずに、家族みんなで他愛のない話をしながら、暖かい食事を取って一日を終えることが理想的です」

Matirog「お腹が満たされるとイライラもしなくなりますからね」

山田「そうですよね。多少寒くても、おなかいっぱいであれば幸せです」

★次回~山田綾子さんの「看護師辞めて、起業した #3」は9月10日配信予定です。お楽しみに!

すきかちっ(Phiomn)