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商品開発力と竿燈で元気を呼ぶ~小国輝也さん+AKITA45

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 秋田経済新聞が、秋田市でまちづくり活動に取り組む市民有志のグループ「AKITA45」(秋田市大町2)と連携して開くオンライントークセッション9回目のアーカイブ。
 定番商品を多く持つ老舗菓子店ながら、積極的な商品開発により「さくらゼリー」「赤まん・青まん」「菅どら」など多くのヒット商品を生み出す、1883(明治16)年創業の菓子舗榮太楼(本社・高陽幸町)。コロナ禍にあっても、同社のスピード感ある商品開発エピソードを交えながら、秋田市の夏祭り「秋田竿燈(かんとう)まつり」の司会者として「秋田の元気」を伝え続ける同社社長の小国輝也さんと、同グループメンバーの社会起業家で、前秋田市議会議員の武内伸文さんが対談した。

※この記事は、2021年2月に行った秋田経済新聞主催オンライン対談の内容を基に、一部加筆して再構成したものです。

小国輝也(おぐにてるや)さん/株式会社菓子舗榮太楼 代表取締役
1963年、秋田市生まれ。明治16年創業の老舗菓子店を経営する傍ら、菓子組合秋田支部長、秋田県観光連盟常務理事、東海林太郎顕彰会理事長などのほか、「秋田竿燈まつり」の司会を30年以上務める。「ひとを呼んで栄える秋田創り」がモットー。

武内伸文(たけうちのぶふみ)さん/社会起業家、前秋田市議会議員
1972年、秋田市生まれ。青山学院大学法学部卒、英国カーディフ大学大学院「都市・地域計画学部」修士課程。「組織・人の変革」を専門に外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアなどを経て、2015年から2021年2月まで秋田市議会議員を務める。「次世代につながる地域づくり」をテーマに、広範な分野で社会活動に取り組む。


武内 コロナ禍で、小国さんの会社も大変な状況にあるかと思います。インバウンドはもちろん、県外からの流入もほぼ止まった1年でした。

小国 観光関連、旅館やホテルなどの宿泊業や、飲食業などは厳しい状況です。昨年4月7日に緊急事態宣言が出た前後の3~5月が、まずは大変でした。多くの業界が、人の動くゴールデンウイークに向けて商品を用意しますが、菓子や土産品業界などのダメージも相当なものでした。駅も空港も利用者がほとんどいなくなりましたから、準備した在庫が全く動かないわけです。人が動いたり、地域に交流が生まれたりしないと、商品も売れず、お金も動かないんだということを改めて実感しました。
 特に賞味期限のある食品などは廃棄するしかなくなってしまう状況だったところ、地場産品活用推進協議会が窓口になって、八橋地区のグラウンドを会場に特集販売会を企画してくれました。広いグラウンドでソーシャルディスタンスをとるため、テントごとに20メートルほど空けてブースを設け、検温などの管理も徹底しました。事業者が多く抱えた在庫を割引価格で出品したところ、1日で2000人もの市民の皆さんが足を運んでくれたんです。それも、しっかり買うことを目的に来てくださいましたので、売り切れる商品も多く出ました。本当にありがたかったです。

武内 あのイベントで応援くださった皆さんは、土産品として買うことはあっても、自分で食べることは少ない地元の商品を手にするきっかけになったように思います。地元の皆さんが県内を旅行する支援策も実施されました。こちらも地元を知ることができるきっかけになったではないかと思います。自分で食べたり、知ったりしたものは、人にも勧めたくなるものです。将来にわたって、秋田の宣伝大使になってくれるのではないでしょうか。

小国 地元のことやものは、知っているようで知らないことがありますからね。みんなが困っているところ、飲食クーポンやプレミアム宿泊券など、県内で消費しましょうとの支援には大変助けられました。お客さまからもさまざまな形で激励いただきました。しかし、お盆前に秋田市でクラスターが出た影響から、8月の当社の売上は例年に比べて6割ぐらい減ってしまいました。帰省客が全国で1番減ったのが秋田でしたからね。

武内 外出を控えた市民や帰省をあきらめた皆さんも我慢しましたが、事業者も我慢のときが続いています。そのような中で、小国さんの会社はスピード感ある商品開発を見せていらっしゃいますね。

小国 潮目が変わったように感じたのは9月です。秋田県初の総理大臣が同月16日に誕生しました。秋田にとって明るいニュースです。そこで、誕生予定10日前の同月6日には、新総理の誕生を祝したどら焼き「菅どら」の販売を決めました。首相の出身地にちなみ柚餅子(ゆべし)を挟んで、焼き印を押した商品として企画しました。通常、焼き印だけでも完成に2週間ほどかかりますが、これを業者さんが頑張って制作してくれました。国会の首班指名の前で、商品の完成前にも関わらず、秋田経済新聞の記事に取り上げられたところ、全国紙やテレビの全国放送から取材依頼が相次ぎ、一気に弾みがつきました。16日の発売日には、総理就任前にも関わらず店舗前に行列ができました。9月の2週間ほどで約4万個が売れました。そんなに売れるものとは思わなかったものですから、当社の工場では朝から晩までどら焼きばかり作る日が続き、ほかの商品の製造に手が回らないほどでした。
 スピード感を持ってやれば、2週間でできるんだということも分かりました。菅首相が、第100代内閣総理大臣に就任されたら「金の菅どら」をと考えています(笑)。

武内 困難をチャンスに変えるためには、タイミングとスピードが大事ですね。ものを作る人がいて、伝える人がいて、欲しい人に届ける。地元の消費だけではなく、県外へ向けたネット通販も増えました。

小国 全て考えてから取り組もうとすると、いい波は過ぎてしまうものです。サーフィンと一緒ですね。乗れる波に乗っていくこと。昨年12月中旬からは、秋田県が、地元の事業者の商品を割引価格で販売するECサイトを開設しました。地元の皆さんは実店舗に足を運んでいただいた方が早いように思いますが、ECサイトでまとめ買いしてくれる地元のお客さまもいらっしゃいました。また、かつては地元の皆さんに親しんでいただいていた当社の定番商品「さなづら」は、近年では、土産品として利用いただくことが多かったところ、地元の皆さんにも改めて買い求めていただく機会にもなりました。

武内 工芸品などの制作販売を手掛ける年配の知人は、ネット利点を知りつつ、通販に取り組めないでいました。今回の県の支援事業をお知らせしたところ上手に活用されたようで、ネットでも売れ始めたそうです。

小国 販売のためのプラットフォームができたわけですから、継続させて、秋田のものを全国に売っていけるといいですね。

武内 ウィズコロナの時代、これらの仕組みを積極的に活用していくことが必要です。そして、そのためには元気が必要。元気と言えば「秋田竿燈まつり」の小国さんの掛け声です。

小国 どっこいしょ~どっこいしょっ!昨年の中止は残念でなりませんでしたが、竿燈の司会と掛け声を1990(平成2)年から担当させていただいています。2019年でちょうど30回目でした。今年の開催は、5月ぐらいまで新型コロナの感染状況を見ながら判断することになると思います。例年通り8月3日~6日、竿燈大通りで開催できることを願っています。
 270年もの歴史ある庶民の祭り竿燈は、五穀豊穣などを祈る送り盆行事で、もともとは観光とは関係なく、町内ごとに開催するものでした。今のように大通りに集まって開催するようになったのは戦後のことです。私が子どもの頃は、100本ぐらいが出竿して広小路で開催していました。1973(昭和48)年から現在の竿燈大通りで開催していますが、当初は180本ぐらい、1990(平成2)年は約190本、一昨年には、280本まで増えています。出竿本数は右肩上がりなんです。少子高齢化が進む秋田で、小若(子ども向け竿燈)も増えているんですよ。祭りが続く限り、秋田が衰退することはない。つないでいくことが大事なんだと感じています。

武内 竿燈は秋田市民の心の支えでもあります。昨年は、竿燈のオンライン動画も作られましたね。

小国 20代の若者が、竿燈の掛け声を多くの人々に呼び掛けて制作した動画「どっこいしょリレー」もありましたね。歌手の藤あや子さんなど秋田出身の著名人も協力してくださいました。

武内 昨年は、竿燈大通りの延長線上にある八橋陸上競技場(八橋運動公園)を利用して竿燈を開催できないかとの検討もあったようですが、このような施設を活用することも考えられそうです。屋根付きのスペースがあれば、冬の行事もできるようになります。

小国 2001(平成13)年に秋田で開かれたワールドゲームズの開会式では、陸上競技場で20本の竿燈を披露しました。ただ、この競技場で竿燈を上げようとすると、巻くように吹く風の影響を受けてしまいます。また、竿燈は雨天も難しいので全天候型のスペースがあれば活用できそうです。秋田市では、ちょうど新スタジアムが話題に上っていますが、スポーツのみならず、竿燈にも活用できれば地域活性へ向けて有効な施設になりそうです。ローカルにこそ特長を持ったものが必要です。
 スタジアムは、スポーツ施設としては郊外でもいいですが、同じ地区に商業施設ができるとなると、市の資源が単純に分散されてしまうことになります。これでは、20~30年後には秋田の商業は崩壊しかねません。二兎を追う者は一兎も得ずとも言います。人口が減少していくこれから先、商業や文化の中心が必要で、コンパクトシティーを目指したいところです。

武内 現在、約30万人いる秋田市の人口は、2045年には22万5000人にまで減るとの予測もあります。この点、地元のほか、市内外、県内外の人々と深いつながりを持つ経済圏として考えていく必要が出てくるかと思います。そこでは、地域としてのオリジナリティーが大事になってきます。「菅どら」の商品開発に見られたような、スピード感や業者間の連携、情熱を持ったパワーが秋田には必要です。

小国 ピンチの時期ですが、これをチャンスに変えていきたいですね。交流人口を増やして「人を呼び込んで栄える秋田」を目指したいです。「将来、生き残っていく地域は秋田なんだ」というぐらいの強い気持ちを込めて。

――ありがとうございました。

菓子舗榮太楼

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