特集

着想の交換~行動と批評と仲間探し(2/2)/AKIBI plus 2017

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アキビプラストーク#4~トークセッション

「武内さんと住友さんが、どういうところに着想を得て、どのように行動しているのかが背景を含めて分かってきました。活動の中でキーになる部分、例えば、武内さんは選択肢を広げていくこと、住友さんは続けること、地域に展開していくこと、出ていく美術館という姿も見えてきました。さて、この後は、一度きりの着想の交換で終えるのではなく、次々と交換につなげていくプロセスを楽しめるようなセッションにできればと思います。(当イベントは)『仲間』『行動』『批評』をサブタイトルに設けていますが、まずは、『仲間』と『行動』について考えを聞かせてください」

武内「秋田に帰ってきて社会活動を始める前、頭の中では『こんなことがあればいいな』と思っていたことはありましたが、なかなか進められないでいました。そのような中で出会った市内スーパーマーケットの社長から『チャリティーマーケットをやってみなよ』と背中を押されたことをきっかけに取り組み始めました。2週間後から始めるという期限を決められて準備を進めると、活動の様子を見ていた人が手伝ってくれるようになり、仲間が増えていきました。思いを誰かに伝えたことで、背中を押してくれる人が現れる。私一人ではできなかったですね」

「チャリティーマーケットでは予期していなかった2次的な効果も現れたんですね。住友さんの活動でも、美術館周辺におしゃれな店が生まれるなど、街の姿が変わってきたとのこと。計画にはなかったところから生まれた波及効果は、仲間といってもいいかもしれません。これらが生じるための余力やすきまを、どのように促したのでしょう」

住友「同時期に開店した店は、美術などの共通項がなかったとしても、何か共感しているのではないかと思います。何らかの共通項がある店や人々。無理なくできる範囲で関わらないと持続はできないのですが、そのような店には何度も足を運ぶようにしたり、商店街のみなさんを展覧会に特別に無料招待したりして、情報交換できる環境づくりを意識しています。店を続けるのは大変なことのはずなので、最終的には経済的に回るよう考えながら」

武内「私も飲み歩きイベントの参加店にはなるべく足を運ぶようにしたり、イベントを通じてつながったアーティストとの関係が店のメリットになったりするよう考えながら取り組んでいます。毎回20~30人ほど集まる飲酒交流会は、飲食店の稼働率の低い日時を選んで開くようにしています」

住友「武内さんは、地元の既得権益的なところとの衝突などはありませんか?」

武内「私はあまり気にしない性質(たち)ですね。もちろん、事前に顔を通すことはします。関わってもらえれば地域の魅力を表現できたり、広がったりするのにとの思いから、協力のお願いに3・4回足を運んで断られても、5回行く。それでも断られることはありますが(笑)。イギリスと日本は、人も社会も成熟度が違うと感じています。経済が弱くなっても、地域コミュニティーのつながりが強いので人々の生活が豊かに感じられます。その最たるものがパブ。近所の人が集まって地域の話をして、ケンカをしている人もいる。ケンカを止めに入る人もいる。このぐらいの熱さで地域を考える人々がいるのは幸せなことだなと思います。豊さを考えるとき、場があるということは重要ですね」

住友「国内の美術館は開館したが継続できないこともあるなど未成熟だと思います。ただ、西洋のモデルを追いかけようとすることには無理があるかもしれません。その社会背景には階級差があって、貴族などお金のある人たちが美術品を一般にも公開しようというのが美術館の生まれた経緯。日本やアジアの国々には、先に美術の概念が入ってきて、後から美術館を作っています。この違いから、日本やアジアなりの美術館のあり方を手探りで考えています。東京の美術館と前橋の美術館とも違うでしょうし」

武内「ヨーロッパの美術館は素晴らしい作品を無料で見られますね。当たり前のように市民が謳歌できる場所です。美術館を核に地域づくりをしようという(国内の)取り組みとは特性が違うような気がしますね。秋田において考えてみると、商店街の存在やイベントの開催した先には、地域の人が交わる場が必要とされているのではないかと思います。秋田に限ったことではないかもしれませんが、人は自分のことを話すなど表現したい思いを持っています。全ての活動のハードルを下げて、不特定多数の人を受け入れる場を作るのはまちづくりのコンセプトでもありますね」

住友「美術分野では、そこに集まる人々が大体決まってきてしまいますので、(その壁を)乗り越えるのが課題です。武内さんが100回以上開いている交流会では、メンバーが固定化されたり、関わりの薄い人々が入りづらくなったりすることはありませんか」

武内「こちらは干渉せず、話しても話さなくてもいい自由な場として開いていますので、参加してくれても交流ができない人もいます。交流会では、グループ対抗のクイズ大会を開くなどして、初めての人でも仲良くなりやすいような工夫をしています。そうして楽しんでくれた人が、また別の人を連れてきてくれることが多いですね。最低でも10人以上は集まってくれていたところ、参加予定が1人だけという回がありました。ところが、飛び込みで20人ほどの皆さんが集まってくれました。続けているうちに課題は出てきますが、自然に気軽に足を運んでもらえる場になってきたのだと思います」

住友「PRを大々的にやるわけではないんですね」

武内「口コミとネットだけですね。商店街イベントでも、近所の小学生の輪から広がっていきます。友だちを連れてきたり、保護者がついてきたり」

住友「(私の取り組みで)専門的知識を持っているボランティアはいないですが、口コミ力を感じることがあります。皆さんに楽しい思いをしてもらうことで広まっていくといいのかもしれないですね」

武内「主体的に関わることができる場面があるといいかもしれません。交流会では、参加者が3分間だけ自由にスピーチできる場を設けています。最初はほとんど交流しなかった参加者が、何度か参加しているうちにスピーチまでするようになって、その後、毎回のようにスピーチする人もいます。話さないで帰ってもいいのですが、話したくなるような環境、場の雰囲気を作ることがいいのかな」

「武内さんが2年ほど前から政治にも携わるようになった動機をもう少し詳しく聞かせてください。それは地元だからなのか。10年前から社会活動を持続して未来へ向けて選択肢を増やしていくことの目測や狙いなどは?」

武内「とてもシンプルなことで、豊かな社会を作りたいとの思いです。イギリスで体験した持続可能な社会へ向けた取り組みを故郷から始めようと。社会活動としてやってきて、仲間もできて進んではきましたが、まち全体を見渡したときのスピード感や広がりの観点からは限界を感じるところもありました。議員は、これをスケールアップ、スピードアップできればとの思いから就いたものです。議員だから発言できる場もあるので、いろんな角度から地域をどのような形にしていくかについて、さまざまな意見を交わしながら取り組んでいます。社会活動と同じですね」

「今後、秋田市で芸術祭の開催も検討されているようです。地域の展望にとってどういう機会になるでしょう」

武内「住友さんの話にもありましたが、アートとは特別なものではなく、アートとまちづくりは共鳴するものだと思います。まちづくりのさまざまな視点を持った人が育成され、経験する人が増えるタイミングになるのでは。ただ芸術祭をやるというだけではなく、地域と掛け合わせることができる人が増えれば、まちづくりのパワーになると思います」

「住友さんも美術が地域に出ていくことを意識的に取り組まれています。芸術祭は国内では形式化、固定化されたものになりつつありますが、一方でさまざまな形を取って生まれてこようともしていますね」

住友「愛知や大分、韓国などの芸術祭の企画に携わったことがあります。私はまちづくりの専門家ではありませんが、文化は当事者になりやすい分野です。一番いいのは次の世代に何を渡すかという仕事だと思います。そして、まちづくりにも関わる当事者になることが大切。過疎地で同じようなことやっても成功しないのは、やり方ではなく、ちゃんと考えていないからではないかと思います。その地域を見ていないから。どうしても隣の芝生は青く見えるものですが、例えば、他の地域で『アーツ前橋』をモデルとして考えないこと。前橋でなければできないことがあります。かつては、社会的問題を扱うアーティストは、美術家のやることではないと批判されたこともあります。90年代ぐらいから比べると、今は社会に目を向ける意識を持ったアーティストが圧倒的に増えました。震災が大きな影響を与えたことは間違いないです。そういう機会が芸術祭の場で生まれることにも期待したいところです」

「地域の固有性をどう見つけるかに関連して、先行事例を見てモデルと思いがちですが、見えるものが見えなくなる可能性もあります。私はインドネシアのまちの力を引き出す実験的プロジェクトに取り組んでいます。私たちの常識からすると、当地の人々はすごくルーズな生活をしているように見える半面、経済成長もしていて、観察していると大きな経済的な価値の波が来ても、ルーズさやリラックスの力、飲みこまれない知恵のようなものが見えてきます。地方性や地方の固有性、その場所の固有の能力。果たしてどちらにアドバンスがあるでしょう」

住友「例えば、前橋を知るためには外部の人の力も必要です。そのためには、『アーティスト・イン・レジデンス』は有効な方法だと思っています。成果は見えづらいところもありますが、アーティストは地域をリサーチしているので、私は『(前橋に)いるだけでいい』と言っています。リサーチのプロセスをもっと公開すれば、展覧会はやらなくてもいいのではないかとすら思います(笑)。プロセスのうち作品になるのは10のうち1だけですが、残り9が面白い。レジデンスでアイデアを残していくアーティストのリサーチオンリーのセンターなどができたら面白いですね。火山国で移民も多いインドネシアの人々は、社会とはそもそも流動・変化する不安定なものとして捉え、自然災害を吸収しています。日本にも知恵はあるはずですが、社会が安定する道具として防波堤を作るなどして変えてしまっただけかもしれません。このようなことは、地元の人が言うよりも、インドネシア人に言われることで気付きやすいところです」

武内「外からの刺激は大事ですね。底に沈んでいるように表に出てこないことを、どうやって表舞台に引き出していくか。地元にはいろんなことを知っていて批評できる人も多いのですが、表舞台に出てきにくいです。そのための場が必要です。そのような情報が外に出てくることは、話のスタートにもなりますから活性のためには非常に重要。こういったことを芸術祭でできればいいですね」

「リサーチを中心に扱うアイデアは面白いですね。どのように残していくのか。美術館に収蔵品があって、記録されて集積されるだけではなく。起きつつあることのリサーチは固定的な答えを出さないかもしれず、こぼれ落ちていくアイデアなのかもしれない。どのように価値付けて記録にしていくかは将来の批評。続けていくことの必要性を住友さんは話されているが、続けていくことの先にあるもの、そこには続けられたことに対する批評も待っていると思いますが、それに対するアーカイビングについて」

住友「作品を残すというのは、それを価値として10年、20年より先の100年後、この地域に残っていて良かったと思えるかどうかという仕事でもあります。(行政から予算を得ているため)私は市議会で説明をする立場でもありますが、時間軸をどれぐらい取って考えるかの意識で、話がかみ合わないことがあります。どうすれば価値を共有できるのか、美術館は長く運営しない限り意味がないです。アーカイブとは、物を残して倉庫にしまったままというのではなく、アクセスできるようにしていくためには手間暇も掛ります。批評という点では、これほど辛辣な批評はなくて、100年後の人が自分たちをどう見るかと考えると背筋の伸びる思い。そのためには真剣に研究するということです」

武内「美術館がどういう効果を出すのかということは、すぐに分かるものではないですから賛同を得づらいところですね。100年は長すぎるが、その先の展開が分かれば議論の余地もあるのでは」

住友「100年を長いと言わないでください。そこがポイントなんです(笑)。香港で見たアーカイブに関する取り組み、アーカイブの蓄積からは、試行錯誤しながら軌道修正してきたことを感じました。失敗から学ぶということかとも。求心力がすごくて、その場へ行けば会いたい人に会えるのです。そこにアクセスすることが価値になっていました」

「武内さんの活動は、美術館とは異なる記録として、知恵の資産を作る構想などはありますか。蓄積したり、積み重ねたりすること」

武内「特に残しているというよりは、関わる人の変化の積み重ねがあるのかなと思っています。人々の感覚が変わっていくこと自体が積み重ね。一人でやらなければならなかったことが、理解者が増えることや参加者の感覚が変わっていくことも同様です。何か自分たちの取り組みそのものが残っていくという変化、積み重ね自体でしょうか」

「市民一人一人が移動するアーカイブや経験値、これから考えていきたいことを含めてアーカイブの一人一人が役割を持って地域に出ていくことや、市民的成熟についての武内さんの話。美術館の場合、作品が批評の対象となりますが、批判ではなく、社会的な批評や取り組みに対する質を外部から指摘される場面などは?」

武内「さまざまな分野のイベントをやっているのでフィードバックの形は異なりますが、人が来てくれることが評価軸なのではなく、その人が新しい発見をして、それを伝える宣伝部隊になるようなベクトルが働くことを目的としてやっています。例えば、商店街の店のことを本当に知ってくれること、店に対する距離感が変わること、人の輪が広がることなどが成果です。来客が増えなかったとか、参加者が少なかったとか、人数で批評する人も多いですが、そこは気にせずに取り組んでいます。モデルとして全国で真似するところが増えたり、視察に来てくれたりすることは店の刺激になることもあります。客観的な批評はあまりないですが、目的でないことは気にしないですね。私自身は続けることが大事で、第一義。ただ、どんなテーマでも、ただ続けるだけだとマンネリ化していく。常に新しいものを組み合わせながらイベントを進化させることも必要です」

「地元メディアに書かれることが批評基準になってくるような意識を持っていますか?」

武内「メディアが表現しやすいような答え方をすることはあります。メディアは、(自分たちでは)たどり着かないところへ綱渡ししてくれますから。目的のためのサポートとして有効な批評ですね」

「成り立ちも特殊で独自の展開を見せる『アーツ前橋』の活動を続ける中で、運営に対してだけではなく、これまで取り上げた作家に対する評価軸のようなものは出てきていますか?『外に出ていく動くインフラ』のようなところもある美術館ならではの批評は?」

住友「(これまでの)美術批評というものだと、捉えづらいのではないかと感じています。地域アートの批評で、参加人数が少ないから検証できないというのは勘違いではないかと思います。これは美術が普遍的なものであるとの思い込みからなのではないでしょうか。誰もが分かるような評価軸で測ろうとすることに、そもそもどういう意味があるのだろうと思います。とはいえ、予算の説明はしなければならないです。館外の活動、展覧会とか美術作品には従来の批評もありますが、そうではない活動が批評に乗りづらいですね」

「『アーツ前橋』の活動に独自性が見つかるのであれば、新しい視点からの批評、『まちづくりとアート』『地域の文化政策』などの方向からの批評などは?」

住友「それはまだ見えていないかもしれないです。手ごたえとしては、若いキュレーターが来てくれることです。(当美術館が)独自のことやっているとの認識が持たれているんだなと感じられるからです。それを批評言語として捉えるとき、美術の批評というところからは外れざるを得なくなります。美術の批評言語だけでは語れない。ほかの分野の人々とも考える時間が必要になります。継続してウェブサイト上で活動報告を続けていますが、関係性の強さを評価軸に考え、活動評価につなげていければいいのではと考えています」

武内「『アーツ前橋』に期待されていることはなんでしょう。社会性なのか、ネットワークを広げることなのか」

住谷「ネットワークを広げる際、なんでも自分たちでできるわけではないですから、苦手なことには手を出さず、専門性を持った人に渡しています。やりすぎないことです。大学との関係も同じ。教育は手間が掛りますし、そこまで時間を割けないこともあります。委託や行政的なやり方をすると、形式的には一緒にやっていても、共有する部分ではかえって手間取ってしまいます。ここでみんな仕事している状況、一緒に仕事をしている状況を作っていくようにしています。任せるところは任せるようにしながら」

「クロスしている部分もそうでない部分もありましたが、共通しているのはずっと続けていることですね。どちらかというと未来形の話を聞けたように思います」

岩井「このプロジェクトで1番やりたかったことは、アートマネジメント人材育成です。その観点から、県内4拠点に根付いた文化的な活動に大学が入っていって、学びながら協働する作業に取り組んでいるのですが、問題はマネジメントする人間の少なさと、どのように人材を育てられるのかです。武内さんは仲間として集まった人たちにどういう役割を与えて、どのようにマネジメントして、どういうふうに広がっているのでしょう」

武内「取り組みによって関わっている仲間は違うのですが延べ50人ぐらい。それぞれに5~10人。それぞれが興味のあることだけに関わってもらっています。あまり細かいところまではやってもらわなくとも、とにかく関わってもらうこと。大事な部分に関わる何人かは踏ん張らなければならないですが、(人々が)何でつながっているのかというと、裏方として一緒に汗をかいて大変な思いをしていることです。同じ経験をすることが大切。参加した人々がうれしそうにしていたり、感謝されたり、満足感を共有することで次につながっています」

岩井「住友さんの取り組みで、立ち上げチームの皆さんはどのようなスキルを持っていて、それがどのように役立ったのでしょう。また、人材育成をどのように行っていますか」

住友「立ち上げは2人で準備しました。私はマネジメントをやることになりましたが、当初から関わったもう1人が、開館までの成り立ちを知っていることが大きかったです。徐々にスタッフを増やしていきましたが、人は入れ替わっていくので(スタッフの)年齢をあえて広くとっています。また、アートのことは関心があればいい程度で、学芸員の資格なども不要にしています。地域の中に入って仕事をしていたことをスキルにしているスタッフがいることも特長かもしれません。人材育成の面では、10年ほど前、当時の美術教育がやっていなかったことをやろうと、学生も社会人も交じった寺子屋スタイルの『アーティスト・イン・レジデンス』に取り組んだことがあります。美術を知らなくても美術の仕事ができると社会的に認められるぐらいのステータスを作ろうと。寺子屋スタイルは、卒業生とのネットワークができ、友愛の関係性も生まれやすい。いい人材も生み出していて、関わった人に助けられることもあります。正式な学校よりもつながりが緩やかでよかったです」

岩井「『アーツ前橋』の徒歩5分圏内には美術関連スペースがいくつもありますが、運営スキルを持っているのですか」

住友「アーティストだから運営スキルはほとんど持っていないですね。重要なのは、コストを低く抑えられるよう全て自分で作っていることです。アーティストであれば、特別なスキルがなくても場所の運営はできるのではと思います。経済的なの面はうまくはないですが、助成金をもらったり、こちらも撮影や設営などの仕事を出したりするようにしています。あとは、孤独にならないよう頻繁に会うようにしていますね」

会場「目指す先が成熟した社会だとして、秋田で実現した場合、どのような社会になるのでしょう」

武内「先ほどイギリスのパブを例に挙げましたが、当事者意識が高まることが成熟した社会。自分が思っていることを出さない社会から、思っていることを交わし合うことができる社会です。いろんな知識や経験を持っている人々が潜在的にいる中で、世の中でさまざまなことを作り上げる舞台に上がることができる、アイデアがあったら意見を言い合える社会。それは、何か形ある物を作るということではなく、どう変えたらいいのか、どういう場が必要なのかということを考えられること。社会が変わり、居心地よくなるスピードが早くなるということです。より開放的になるイメージですね」

会場「100年後を意識したアーカイブの方法として可能性あるのはどのような方法でしょう?」

住友「抽象的になってしまいますが、誰も見ていないような瑣末(さまつ)な資料からも歴史の転換点を見つけるような歴史学者がいます。何が大事なのかを自分たちで決めないことがアーカイブの大切なことかと思います。いま大事ではないものが、残されることによって、価値の転換に気付くことがあります。それは100年後、社会も人間の意識も変わっているはずです。デジタルか物かといえば、物から得る情報の方が大きいと思います。 『アーツ前橋』でも収蔵作品や資料など増えていますが、まだ充実したアーカイブはできていないです。アーカイブには作品として残すものと資料があり、それぞれ違った観点が必要になります。資料の方は瑣末なものも残すようにしていますが、作品は残せるものが限定され、そこには価値判断が入ってしまいます。巨大美術館のような、いま価値が与えられていないものを残すことまでは、日本ではなかなか進んでいないところです」

会場「なぜ秋田の美術館はアーカイブを残す予算がなく、県立・市立美術館は図録冊子を作れないのでしょう。閉館時間も早い。アーティストの活動を支援するだけではなく、作品を未来に残すことを計画しないのでしょうか」

武内「具体的な回答はできないですが、意見としては、アーカイブに対する価値がどのぐらい感じられるか。そこにあることによってどういう効果が生まれるのか。どれぐらい持っているのか。地元のアーティストの価値をどう考えているのか。美術に触れることの自由についてどのレベルで考えているのか。疑問が多いですね。今の考え方が正しいということではないとの立ち位置から、ほかの地域のものにも触れ、考え方を転換すること。閉館時間についてはすぐに議論できますが、どうあるべきかは、まだまだ勉強しなければならないところです」

「秋田市で行政主導の芸術祭が開かれるとすれば、その際の注意点などは」

武内「芸術祭自体を目標にせず、また、美術の専門家だけでやってはいけないように思います。芸術祭の後にどのような評価があるのかを考えると、まちづくりや市民参加などの観点と触れ合いながら、何かとの掛け合わせで考える視点が必要だと思います。その後の効果につながってくると思います」

住友「ほかでやっていることと同じようなことをやるのが一番よくないですね。あえて先延ばしにすることも大事かもしれないです。期限を決めてやってしまうと、ほかでやっていることを真似してしまいがちです。予算化の問題などもあると思いますが、いいものができたらやるという感覚。10年ぐらいかかっているのに改装工事がなかなか終わらないオランダの国立美術館があるのですが、期間中、いろんな人に波及していくこともあるようです。専門家に任せるべきことがどういうことかも分かってきます。準備期間は楽しいじゃないですか。皆さんに楽しんでもらえればいいですね」

「重要な視点かと思います。ここで結論付けるのではなく、着想の交換のプロセスを受け止めて、続けていけるようなはずみのあるトークセッションでした。ありがとうございました」

「辺境芸術」編集会議(アキビプラストーク#1)辺境の編集学~編集者・宮脇淳さん(アキビプラストーク#2)子育て視点は芸術家の視点!?(アキビプラストーク#3)AKIBI plus(秋田公立美術大学)

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