特集

着想の交換~行動と批評と仲間探し(1/2)/AKIBI plus 2017

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秋田公立美術大学(秋田市新屋大川町)の岩井成昭教授のグループが展開するアートプロジェクト「AKIBI plus(アキビプラス)」。アートマネジメントができる人材の育成などを目的に公開シンポジウム「アキビプラストーク」をシリーズ開催する。2月3日に開かれた4回目のテーマは「まちづくり×アート」。秋田市議会議員で社会活動家の武内伸文さんと、「アーツ前橋」(群馬県前橋市)の館長・住友文彦さんをゲストに招き、「着想の交換~行動と批評と仲間探し」と題して開いた。2人がそれぞれの活動を紹介後、トークセッションを行った。ナビゲーターは、同大学大学院の岸健太教授。

武内伸文さん

経営コンサルタントとして8年ほど働き、企業の変革に携わりました。その後、社会の変革に携わりたいとの思いから、イギリスの大学院で都市計画を学びました。秋田に戻って13年、まちづくりなどの社会活動に関わって10年ほどになります。2年半前からは秋田市議会議員も務めています。

都市計画と一口に言ってもさまざまな分野があるのですが、大学院では、次世代につながる持続可能な社会や企業、地域のあり方、環境に優しい社会などの観点から都市計画を学びました。しかし、大学院で学んだこと以上に、イギリスでの日常の暮らしの中から感じたことが今に役立っていると感じています。イギリスには衣類や食器などを売るチャリティーショップがたくさんあります。買い物をすることで社会活動につながる仕組みです。心臓病患者を救うためだったり、アフリカの飢餓を救うためだったり目的はさまざま。参加費が環境団体に寄付されるマラソン大会があるなど、走ることでも社会活動に参加できるのです。社会活動に関わることは学生の就職条件にもなっています。関わり方のスタイルはさまざまですが、広い世代の誰もが楽しみながら社会活動に関わっています。当地は、市民がどういった形で社会のパワーになっているのかを感じられる社会、選択肢のある社会のように思えました。

家庭の事情で帰郷してからは、「持続可能な環境に優しい豊かな社会を次世代に」との目標を掲げ、家業とは別にライフワークとして社会活動に取り組む団体を立ち上げました。周囲に私の思いを話すと、誰もが「いいですね」と言ってくれますが、「一緒にやろう」と持ち掛けることは簡単なことではありません。人はそれぞれにハードルがあります。人を無理やり引っ張りこもうとしてもうまくいきません。押し付けや力ずくで変革はできないのです。環境づくりをすることが社会を変えるための早道と考えて、気軽にハードルを越えられる仕掛けや仕組みを作ることに取り組んできました。

「気軽に始められること」「できる範囲で関わること」「関わったことに実感を持てること」を原則に、誰もが気軽に参加できる場を作ろうとチャリティーショップの日本版を始めました。家庭にある不要なものを寄付してもらい、欲しい人が自分で値段を付けて持ち帰ることを通じて、社会の貯金を貯める仕組みです。活動していると、新たなストーリーも生まれます。東日本大震災の際には、被災地で使うことを条件にクルマを寄付してくれた人もいました。これは石巻のNPO法人に届きました。秋田市在住のネパール人は帰省時、チャリティーショップに集まった多くの古着をネパールの孤児院に持ち帰ったこともありました。

秋田には遊びの感覚が足りないのではとも感じていたので、イギリスで見た自転車タクシー「ベロタクシー」を購入しました。ほとんどのみなさんが乗る前は恥ずかしがるのですが、乗ってしまうと笑顔になります。ベロタクシーで秋田市内を走る結婚式「まち婚式」を挙げたカップルもいます。

地元の商店街のみなさんからは、「まちなかのイベントでは売上が上がらない」との話を聞いたことから、「商店街スゴロク」を始めました。商店をマス目に見立てて、サイコロをふりながら商店街を回るイベントです。日頃、足を向ける機会のない店舗に入るきっかけになります。3カ月に1回ペースで開いていますが、毎回100人ほどの市民が参加しています。

参加者が非日常を感じられる仕掛けを盛り込みながら、飲食店のPRも兼ねて開く飲み歩きイベント「アキタ・バール街」や、前向きな話のみすることなどのルールを設けて月1回飲酒しながら開く交流会「グリーンドリンクス」は、毎回テーマと会場を変えて開きます。一人で来場しても合流できる仕掛けも用意しています。

住友文彦さん

私は学芸員として美術作品を調べたり、文章を書いたり、展覧会を企画したりしています。これまでに、アートセンターや美術館などステークホルダーが違う場所でさまざまな仕事に携わりました。現在、群馬県前橋市で2013年10月オープンした美術館「アーツ前橋」を運営しています。地域団体と一緒に作った活動コンセプトは「創造的であること」「みんなで共有すること」「対話的であること」の3つ。

当美術館は、商業ビルをリノベーションして3フロアを活用しています。美術館ができる3年ほど前から、まちなかに拠点となるスペースを持ち、イベントやアートスクールなどの活動をしていました。ここで美術館の計画に賛成してくれる仲間が増えました。その後の美術館のヘビーユーザーにもなってくれました。当初は美術館に反対していた市長も、今では宣伝に力を入れてくれています。

ちょうど東日本大震災が起きたタイミングで、アーティストが震災を伝える実際の新聞紙面を基に作った作品があります。展示予定はなかったのですが、他所のギャラリーに展示したところ、「これを残そう」と地元デザイナーの発案でプロジェクトが立ち上がりました。共同購入の仕組みで300人ぐらいが1口2,000円。一人では買えないものも、みんなで買えば作品の所有者になることができます。その作品を美術館に寄贈し、集まったお金は被災地で活動するアーティストの支援金に回しました。作品を買うことと被災地支援の両方ができる、うまくできたアイデアもありました。

美術館を作るとき、美術館の学芸員と行政だけで作ってしまい、そこにアーティストがいないことがあります。当美術館ができる前から、沖縄出身でニューヨーク在住のアーティストを滞在型制作「アート・イン・レジデンス」で前橋に呼んでいたので、関わってもらいました。商業ビルの非常階段は館内から見えない場所にありますが、いざというときに大事なもの。震災後だったこともあり、ガラス越しに見えるように設計しました。

当美術館の収蔵作品は、古い近代洋画から現代の若い作家まで800点ほどあります。開館に際して大きな予算は付かなかったなどの事情もあり、地元密着型の展覧会として開館しましたが、かえって当美術館の特長になったように思います。

また、『館外に出る地域アートプロジェクト』も当美術館の特長です。前橋は絹をヨーロッパに輸出することで栄えた町です。地元の人々からいらなくなった服を寄付してもらい、誰かがそれを着ることができるファッションの図書館のような部屋を運営したり、ヨーロッパの羊飼いの息子のアーティストを呼んで、地元農家の農家が抱えている課題を一緒に考えるイベントなどを開いたりしました。「アーティスト・イン・レジデンス」は、国内外のアーティストを毎年4・5組ほど呼んで続けています。地元商店街の人たちは、自宅の夕飯に呼んで話すことを楽しみにしているようです。

前橋市は県庁所在地ですが、郊外に大型ショッピングセンターができてからの中心市街地は空き店舗だらけになってしまいました。中心市街地は非常にコンパクトにできています。アーティスト自身が運営する「アーティスト・ラン・スペース」やデザイナーが作った場所など、常時活動しているものばかりではありませんが、5カ所ぐらいあります。これらを美術館の展覧会と合わせて5~6分で回ることができます。美術館を作る目的の一つに地域の活性化もあったのですが、空き店舗が新しくおしゃれになっていったことは、美術館の効果もあるように思います。

美術館にとって地域が重要な理由は、地域と向き合うことによって美術だけではなく、横断的な実践の場があるということかと思います。実際に作品を楽しむ人たちと対話する場でもあります。人々から活力を引き出し、私たちももらう。対話的な場が地域にあることです。学芸員の仕事は1次資料に触れることが大事ですが、論文や書籍を読むということではなく、地域から直接得られるものが大きいのです。自分たちで持っている知識だけで閉じられない、分断化されないこと。そのためのきっかけとして地域があります。人や作品の行き来があるという意味で、美術の世界や美術館は専門的なネットワークに登録されていきますが、グローバルなネットワークの中で美術を考えるとき、どこでも同じような美術があるのではなく、地域が美術館の固有性になっていくような意識を持っています。同時代の人が観るという意味では、地元アーティストのコレクションも展示します。

「館外に出るプロジェクト」に取り組んでも、そんなに多くの人がワークショップなどに参加できるわけではありません。人数が多いからいいのではなく、お金に交換できない時間が生まれること、交換できない価値をどこに見出すかということが大事だと考えています。

同時に、透明性を大事にしたいと考えています。美術館は開館したときは良かったけれど、年月が経つと予算がカットされてしまうことも多いですが、私は美術館から恩恵を受けて人生が豊かになりましたので、美術館には長く続いてもらいたい。そのためには、自分たちがやっていることをオープンにしていくことが大事です。運営協議会も一般的には年1回のところ、年4回開いています。

私は、当美術館ができる前から、どうやったらお金などのハードルを下げた拠点として人が集まれる場所を作れるだろうと、さまざまなトライをしていましたが、今の美術館の運営に役立っているように思ってます。続きを読む

「辺境芸術」編集会議(アキビプラストーク#1)辺境の編集学~編集者・宮脇淳さん(アキビプラストーク#2)子育て視点は芸術家の視点!?(アキビプラストーク#3)AKIBI plus(秋田公立美術大学)

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