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「秋田芸術新聞」編集部員ゼミナール/AKIBI plus 2017

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アートマネジメントができる人材の育成などを目的に、秋田公立美術大学(秋田市新屋大川町)の岩井成昭教授のグループが展開するアートプロジェクト「AKIBI plus(アキビプラス)」。事業の一環として2017年6月~10月、架空のニュースサイト「秋田芸術新聞」編集部員ゼミナールが秋田市内で開かれた。アートマネジャーとして必要なスキルを「記者」の立場から理解・実践することを通じ、アート事業の企画・立案から広報戦略までを身に付けることが狙い。受講者は公募で申し込みのあった以下の7人(50音順)。石森美紀さん(秋田市、大学院生)、越後谷正見さん(同、公務員)、佐々木尚紀さん(同、公務員)、高尾保詩乃さん(同、秋田公立美術大学1年)、竹田牧子さん(能代市、ライター、グラフィックデザイナー)、宮原葉月さん(秋田市、イラストレーター)、武藤正彦さん(同、グラフィックデザイナー)。講師は、秋田経済新聞の千葉尚志編集長(以下、敬称略)。

■第1回「概論」

――初回はニュース媒体が配信するネット記事の現状や広報・PRの役割などを中心に勉強しました(6月27日)

竹田「長らく広告の制作に携わってきたのですが、私は『広告』の言葉にとらわれていたことを実感しました。これまで『広告・宣伝』と『広報・PR』の違いを深く考えるきっかけがなかったので、初回の講座から衝撃を受けました(笑)。『広報・PR』は、『広告・宣伝』に比べると低コストなのにもかかわらず、世の中に与える影響力を知り、重要性を認識しました。事実そのものを伝えることに価値があるのだと視野が大きく広がりました」

武藤「勤務先で担当する広報の仕事に役立てたり、広報の基礎を再確認したりする機会になればと思い参加しました。広報と広告の違いは分かっているつもりでしたが、仕分けができていなかったかもしれません」

石森「ウェブ上には『オウンドメディア記事』『PR記事』『報道記事』など性質の異なる種類の情報が混在しているのですね。私には混沌としていて、記事の信頼性を見分ける基準が分かりませんでしたが、メディアリテラシーの基礎も確認でき、知る権利などを含めた報道の意義や一部媒体の広告と報道の分離の形骸化などについても知ることができました。編集方針や取材方法によっては、ネット記事も信頼性が担保できることを理解しました。メディアの展望や置かれている課題については、具体例を教えてもらうことで実感できました」

宮原「報道記事と広告記事の違いの理論が難しかったですが、報道記事の発信力の強さや雑誌や広告記事とは違う信憑性があるんですね」

高尾「今まで意識していなかったネットやパソコンの常識や、新聞記事について学ぶことの意義を知ることができました。地域の特色を生かしたり、他媒体との差別化を図ったり、同じ題材の記事にも媒体によってさまざまな思惑が込められているのですね。『この新聞社はこういう視点なのだな』と考えながら新聞を読むようになり、これまで意識してこなかったことが見えるようになったように思います。記事を読むことが楽しくなりました」

■第2回「ニュースリリースの作成(1)」

――題材を基にニュースリリース(プレスリリース、報道資料)を実際に作成してもらいました(7月4日)

石森「前職や学生時代のインターン経験からPRに関心がありましたので、PRの基礎を知りたかったところ、私の認識が『間違いだらけ』だったことに気付くことができました。PRは、自社の利益を最大化するため、客観的情報を提供しつつ過不足なく伝えるというコミュニケーションのテクニックだと思っていたのですが、記者が記事化しやすいポイントをニュースリリースに盛り込むことで、記事化してもらうという目的を達成する発想を学ぶことができました。企業のPRは大本営発表のようでつまらないと思っていたのですが、ユーモアを盛り込むことで記者へアピールすることもできるのですね」

竹田「客観的目線で情報を案内しながら、記者の目に止まる書き方の必要性を理解しました。興味を持ってもらえる『しかけ』が、事業の企画の段階から大切なのですね。企画が面白ければ記事も面白くなり、報道各社を巻き込みながら大きく広がっていきやすくなることも分かりました。物事を始める上で大切な視点ですね」

佐々木「実際に原稿を書かないと身に付かないだろうと思っていたところ、初回から宿題が出たので(講座の)本気度を感じました。ニュースリリースの作成は、デザイン能力が発揮できます。記事よりも自由に書くことができるし、ポスターやリーフレット作成の方法に近いところがあります。記者の考え方を理解すると良いものが作れることが分かって、工夫しようという意欲がわきました。初めての原稿の添削は全員真っ赤でしたね(笑)」

武藤「記事を書く作業は、広告コピーライター(ヘッドライン、ボディーコピー)とは別物で、今までの経験値は生かされなくて、容赦ない赤字・訂正を受けました」

越後谷「私も添削で真っ赤に染まりましたが、覚悟していたので(笑)。読むのと書くとでは全く違いますね。一行書くのも難しかったですが、たくさんの道しるべを与えられたように思いました。ニュースリリースの作成は、私にとっては日頃なじみある技術資料の構成に似ていると思いました。講座を受けるようになってから、技術資料や報告書を書く際にはニュース記事を書く場合に置き換えて考えてみるようにもなりました。相手に届く表現に気を付けるだけで、ずっと読みやすくなることに気が付きました」

宮原「記事の添削はとても勉強になりました。実践が一番ですね。ニュースリリースの作成を通じて、初めて記者の立場をイメージすることができました。講座で紹介されたニュースリリース『ゆるキャラ引退イベント』のようなサンプルをもっと知りたかったです。私は修字やアピールが強くなる傾向があるようです。講師が『嫌味がなくて良い』とほめていた、ほかの受講者のような原稿を書けるようになりたいです」

高尾「ニュースリリースという言葉の意味を初めて知りました。これを理解して活用していくことができれば、ワークショップや展示会などのイベントを企画する際に大きな影響を与えると感じました。実際に私たちのグループが作品展を開くときにプレスリリースを作成しましたが、新聞社に取材してもらうことができました。もっと多くの人にニュースリリースについて知ってもらいたいです」

■第3回アキビプラストーク「辺境の編集学~中央にないネタ探しの旅」

――東京で編集プロダクションを経営している編集者の宮脇淳さんが登壇したトークイベントに参加していただきました(7月13日)

越後谷「ボイスレコーダーやカメラ、ノートを用意して臨みました。前日までに、宮脇さんのサイトからリンクされている対談文章をほとんど全て読んで、人となりも調査しました(笑)。東京の編集者という肩書になぜか構えてしまうのですが、出身地が和歌山であることを知って、これもなぜか親近感を覚えました。飾らない人柄の宮脇さんは事前調査のイメージそのもので、とても楽しく話を聞くことができました。録音したボイスレコーダーはまだ一度も聞いていないのですが(笑)」

【特集】辺境の編集学~編集者・宮脇淳さん

竹田「私も地域情報を発信してみたいとの思いがあることから、情報発信する際の心構えにもなる内容の宮脇さんの話は興味深かったです。私たちの日常に情報があふれていることを知りました。ささやかな幸せや興味が湧くことなど、日々の生活の中から情報を切り取り、まちの記録を残していくこと。面白いことを探す目線を教わりました」

佐々木「ネタ探しの方法は言葉にまとめると平凡ですが、実際は本業のノウハウが結びついてこその部分がありそうですね。宮脇さんの切り口はなかなか真似できないのでは。日々の訓練が必要になりそうです」

武藤「講座の課題を達成するため日常にネタ探しをしていましたが、広告やデザインのアイデアやヒントを探すことにも似ていますね」

石森「地元の魅力を捉えて広く発信することや、地方でのユニークな起業やイベントを行う人々をつなげてコミュニティーを作ることなど、日々の生活の中での地道な活動について話を聞くのは初めてでした。継続的な活動の重要性を理解しました。一方で、ユーモアなどの受け手が一目で魅力を感じられるネットニュースの特長と、社会への問題提起や新しい表現方法の提示など受け手が考えを巡らせるアートが目指すものとは相容れないのではとの感想でトークが終わってしまったことが惜しまれました。インターネットでコアなファンを見つけて開拓し、それからファンを増やしていく戦略について、もっとディスカッションを広げられれば良かったです」

越後谷「メディア側がアートを引き立てることもあると思いますが、アート側がメディア特性を理解することこそ重要に感じました。この点、宮脇さんを交えて翌日に開かれた『ライター交流会』では本音トークが満載で腑(ふ)に落ちたこともありました」

佐々木「ライター交流会では越後谷さんとたくさん話しましたね。業界の闇も聞こえましたが(笑)、希望も見せてもらいました。同じ地域の人だけでは(仕事上の)限界があるとの話には考えさせられました。本業の人の話題についていけないところもありましたが楽しかったです」

■第4回「ニュースリリースの作成(2)」

――前回のトークイベントが開催前だったと仮定して「どのような内容のプレスリリースを発行するといいのか」を課題に勉強しました(7月25日)

竹田「記者に興味を持ってもらえるタイトルの付け方や見せ方、記載すべき内容について確認できました」

石森「文字サイズやフォントの選び方、図形の使い方などの解説も受けました。レイアウトを考える視点が私にはなかったので、文章内容だけではなくプレゼンテーションスキルの重要さを実感しました」

越後谷「今回作成した私の原稿の校正はほぼ修正なしでしたが、ネット上のコンテンツをコラージュしたためかもしれません。この方法だと実力がつかない恐れがあるので、次回は自分の文章だけでまとめようと思いました。ほかのメンバーの作成物を見て、ワープロソフトに習熟していないことが自分の課題であることに気が付きました。この頃からメンバー同士で自由に発言するようになりましたね。なんて素晴らしい受講者の皆さんなのだろうと思いましたよ」

武藤「性差や年齢差、キャリア差、居住差の異なる7人でしたが、回を重ねるごとに会話が弾み、良い意味での緊張感と大人の良識ある講座になりました」

■第5回「記事作成の基本」

――実際に発行された「秋田内陸線市場」に関するプレスリリースを題材に、取材も行ったと仮定してニュース原稿を書いていただきました(8月10日)

竹田「新聞記事を書く際のポイントとして、『結論』『重要な情報』『詳細』の順に書くことで、簡潔に読者に伝わる記事になることを知りました。読者ターゲットを意識しながら、事実を伝える文章の書き方が分かりました。また、記事の作成を上達させる近道は『良い記事を写し書くこと』。読むと書くのでは大違いで、数をこなすうちにパターンが分かってくるとの講師の言葉に、私でも上達する希望をもらったように思います。ニュースリリースからニュース原稿のイメージをふくらませたり、フックになる企画を考えたりすることなど、取材ではどこをどのように切り取ると面白みを持たせられるかが大切だと学びました。タイトルの付け方の基本もとても勉強になりました。1本の記事に対してタイトルを複数案考えることや、説明しなくても明快に伝わるタイトルを付けること。これは記事の作成だけではなく、企画やコンセプト、編集、デザイン…さまざまな分野に取り入れるべきことですね。時間をかけてタイトルを付ける作業は自分の仕事でも生かせそうです」

宮原「『取材した内容の10分の1を原稿に反映する』とのことでしたが、全ての情報を拾って増幅させていく私の仕事スタイルと大きく違っていました。内陸線のことをたくさん知ってもらいたいと話題を盛り込み過ぎてしまい、伝えたいことが分かりにくくなっているとの指摘を受け、思いが強過ぎても記事にならなくなることを痛感しました。本質を見抜き、余分な情報を捨てる例をもっと知りたいと思いました」

石森「記事作成の基本を再度確認できました。ありきたりな情報からもニュースバリューを見つけられることがあるんですね。新聞記事のように、平易で簡潔な文章術を学びたいと考えたきっかけは、自分の研究論文をもっと読みやすく、分かりやすくしたいと思ったことです。情報の重複や冗長な文章を避け、文章のリズムを考えて構成することなど講座で学んだ点は、自分の執筆に生かすことができました。国際赤十字連盟主催のコンテストに英語論文を提出したのですが、ネットで公開されることが決まりました。東日本大震災がテーマの論文のため、欧米の研究者にどこまで伝えられるのか不安でしたが、好意的な講評を受け、論点が伝わった実感がありました。形式や言語の違いはありますが、受講のおかげで、読み手によりアピールできる文章になっていたのではないかと思います。毎回の課題では、無料受講するのが申し訳ないほど丁寧に添削・講評してもらい大変ありがたかったですね。有料講座としても開けるのでは」

佐々木「毎日、新聞をななめ読みはしても、記事に携わっている人の文章とは違うことを改めて認識しました。また、記者のスタンスがブレたら記事にならないことがよく分かりました。『ファクトを積み重ねること』も大切ですね。原稿作成の課題と添削で進められた講座で良かったです。皆さんの原稿も上達していきました。私も仕事で事務的な内部文章を書いているのですが、仕事で必要な書き方以外は身に付いていないし、それも何となくテンプレートを真似ているだけということを自覚できました。自分で文章を書くときのレベルが変わりました」

高尾「ニュースリリースの作成同様、ニュース記事の書き方について学ぶことで、企画を立ち上げる時点で『私たちのやりたいことがどうしたら注目を集めるのか、どのようなことを(記者に)面白いと思ってもらえるのか』について考えるようになりました」

越後谷「私が原稿に挿入した解説記事は、一見どこからかのコピペに見えますが、大量に調べた内容をそぎ取って完成した力作。内陸線について何も知らずにいたので、よい機会になりました。参考のつもりで見た全国紙の記事に無意識に引きずられないようにと、原稿の作成では逆に意識し過ぎたかもしれません。20個ほど考えた末に決めたタイトルは、自分では気に入っています。最初の課題と比べると、受講者全員がレベルアップしたことを感じましたね。記事の構成が洗練され、主眼を置いたポイントに個性が出てきました。自分が書いた記事についての校正内容ばかり気になっていたところ、徐々にほかの受講者の原稿についても我がこととして講評を聞くようになりました。ありきたりな物産展を取材しながら、一つの商品にのみ焦点を当てる『幼虫チョコ』のエピソードは興味深かったです。具体的な話題には引き込まれますね」

■第6回「写真撮影の基本と実践」

――建物や料理、人物など5つの被写体を題材にスマートフォンで撮影していただきました(9月11日)

竹田「私もデザインや取材のために写真を撮影する仕事をしていますが、ニュース写真の考え方には学ぶところがありました。写真には個人的な目線や芸術的な目線もありますが、ニュースでは『事実状態を伝える客観的目線』が必要になるんですね。全体像を分かりやすく、言葉で説明しなくても状況が伝わる写真。人に伝えるための写真撮影を意識することができました」

石森「新聞などニュース写真の構図には美的センスを感じず、なぜもっときれいに撮影しないのだろうと不思議に思っていましたが、時間や場所、機材などの制約があるほか、全体像や情報を過不足なく伝えることなど優先すべき点がほかにあることを理解しました」

越後谷「皆さんが撮影した写真を題材に、良いニュース写真を絞り込む話し合いはとても楽しかったです。収れんするのではなくどんどん発散してしまったので、編集会議ではなかったかもしれませんが」

宮原「皆さんとのディスカッションは面白かったですね」

佐々木「ほぼ全員外した建物の中でベストとされた写真は、個人的には広角レンズのパースがきついところが欠点に見えました。被写体に魅力があれば、多少ミスのある写真でも読書の興味を引くことができることを再認識しました。受講者同士で写真の相互評価をしましたが、武藤さんの写真がうまかったですね」

武藤「広告写真のディレクションをしていて撮影慣れしてはいるものの、ニュース写真については、テーマポイントと周辺の関係性が読者に伝わるアングルや画角などがあることを改めて認識しました」

高尾「ニュース記事向けの写真であることを意識して撮ったり、皆さんの撮った写真を見たり、とても新鮮な体験でした。被写体の入れ方や位置など撮影する際の視点について勉強になりました。その後、イベント会場では考えながら写真を撮るようになりましたよ」

■第7回「取材の基本」

――取材プロセスや取材時の心構えなどについて勉強しました(9月20日)

高尾「取材にはたくさん種類があることに驚きました。取材に赴くときの手順やマナー、心構えなど、常識的なことであっても自分は知っていると過信せず、謙虚な姿勢で一つ一つ丁寧に当たっていくことが大切なのだと感じました」

竹田「取材する相手を『尊敬』することで心を開いてもらい、その『人となり』が分かるようなところまで引き出せると良い取材になるんですね。下調べはもちろん、新店オープンなどの際にはお祝いの言葉を贈ったり、掲載後に記事の掲載先を知らせたりすることも大切なことですね。講師への質問で、『他媒体が拾わない情報を取り上げること』『少しずらした目線で見つめること』『常にアンテナを張って、情報のネットワークを意識すること』『なるべく人と会って話すようにすること』などを教わり、自分でも真似したいと思いました」

石森「取材対象による事前の校正がある情報誌などの記事と、それを行わないニュース記事との差異を知りました。日本ではあまり報道機関の実態などがエンタメになりませんが、報道の裏側を扱ったアメリカ映画『スポットライト』(調査報道部のスクープ裏側)やドラマ『グッドワイフ』(政治家の広報担当者と報道記者との攻防)などを見ていたので、取材対象と報道機関との関係性や報道の客観・独立性について、講座を通じてリンクする点がいろいろありました」

越後谷「取材者としての心構えや基本的作法として、講師は取材対象を『尊敬する』とのこと。言われてみれば納得します。『尊重する』『親しみを感じる』でもいいかもしれませんが、『尊敬』は無敵ですね。しかし、難しそうに思いました。取材を繰り返すことで自分なりのスタイルが確立するかもしれません。予定稿を書くことは、学会の報告書で同様ことを行ったことがあります。学会の報告書はフォーマットがだいたい決まっているので、中身を手直しする程度で完成できます。説得力ある具体例を盛り込んだ講義の内容は実感できました。つっこんで講師に質問すべきかとも思いましたが、なんとなく遠慮してしまいました」

佐々木「私は取材について気になっていたことを聞きまくりました。取材対象というよりも、もっと土台にある『人』として他者に接する態度が重要であるとのことは、自分の仕事にもすぐ生かせる内容でした」

■第8回「取材の実践」

――最終回はトークイベント「アキビプラストーク」に参加いただき、イベント終了後にはゲストスピーカーに「囲み取材」をしてもらいました。また、これまでの講座を振り返った感想を聞かせてください(10月7日)

高尾「私は学校の新聞係などでしか記事を書いたことがなかったのですが、ニュースリリースの構成の重要性や企画自体の問題点についても考えることができました。文章の構成や量、表現の仕方などを考えて書くことでまだ精いっぱいですが、もっと書けるように練習していきたいです。私にとっては、こらからの課題が見つかったように思います」

宮原「タイトルの付け方や、原稿の逆三角形の構造、ストーリーを持たせることなど、今までにない視点が見えてきました。予想以上に勉強できたことがありました」

竹田「私はデザイン制作しながらライターもしています。人に何かを伝えたいとき、言葉や文章はとても重要だと思っています。ウェブが進歩しスマホから多くの情報を得るようになった今、文章の役割がより重要です。報道記事の『今ある事実を文章に起こし情報発信していく』プロセスは、『人に伝える』手本そのもの。受講を通して、記者側と取材対象側の両方の目線を学べたことが大きかったです。講師の話は毎回、ハッとさせられるキーワードがあり、とても興味深かったです。講座を通じて情報発信の視点が大きく広がりました。ノートに書き留めた大切なキーワードを宝に、これからに絶対活かしていきます。受講した皆さんとのディスカッションもとてもためになりました」

武藤「秋田のアート事情について、もっと掘り下げられれば良かったと思います。講座中、編集会議らしいシーンもありましたが、今後も職場やSNSなどで講座の経験を反映できれば」

佐々木「ゼミナールの受講を迷う中、まずは事業目的を理解しようと、同プロジェクトで発行した書籍『辺境芸術最前線』を読んでいたところ、申し込みの提出が遅れ補欠登録になってしまい…ガッカリしていたところ参加できてうれしかったです。全8回に皆勤できました。私も専門知識を教える仕事をしていますが、ここまで教えてくれる講師はそんなにいないです。おそらく講師自身の経験に基づかないことは言っていないと思います。ハッタリもないです。実践に裏打ちされた内容を伝える素晴らしい講師と素晴らしい受講者の皆さん。あとは『秋田芸術新聞』を世に出すことができるかどうかですね。実際に取材と編集会議をやりたいという意見もあって、受講者のモチベーションは高かったです」

石森「記事作成・講評を通じて、自分の文章に(良い意味で)より批判的になりました。無駄を極力排しているか、まわりくどい言い回しがないか、最後まで編集する必要性を再認識できました。受講者の皆さんとは属性は異なりますが、美術・芸術・文章表現に経験や興味があるという共通項のおかげで、楽しく刺激的な議論ができました。講座でも話題になりましたが、そもそも『辺境』とは何かがあいまいだと思います。地方の特殊性や特長をポジティブに捉えて打ち出した方が、秋田市民にアピールするのでは。事業目標が、アートマネジャーの育成やアートに対する理解の橋渡し、文化事業によるまちおこし(公共事業的)と、少なくとも3つが混在していて何を目指しているのかが分かりにくいため、事業の達成目標や問題点、改善点が見えにくく、今後につなげづらいようにも思いました」

越後谷「書けば書くほど深みにはまるというか…読み返すと、これまでの指摘がよみがえっては何度も書き直す…の繰り返しで全く終わりませんでした。最後の課題は、一番充実した作業になりました。毎日、新聞を読むたびに教わったあれこれが気になっています。職業として趣味として芸術に携わっている人と、そうではなく興味もさほどない人とでは見える世界が全く違うだろうと想像しています。(芸術的)価値があることは大事でも、あえて記事として取り上げるだけの『何か』が必要なのでしょう。注目されずにいる存在に光を当てて発信するマネジメントの重要性がここで浮かび上がります。『秋田芸術新聞』のターゲットを広い世代と考えた場合、一方通行になりがちな情報伝達をいかに双方向・多方向にするのか、情報発信についての習熟も芸術の理解も不十分すぎる私には見通せない険しい道であると感じています。安心して批評できる空間などまだ先の話で、絵画でも演劇でも気楽な話題として発信し合える場があれば良いと思っています」

■講座を振り返って/千葉

毎回、受講者の皆さんの終業後18時から開いた講座でした。きっとお疲れのところだったはずですが、熱心に受講される姿勢に身が引き締まる思いでした。「秋田経済新聞」はアート関連記事を多く扱っていますが、当講座ではアート分野にこだわらず進めました。講座で取り上げた多くの事例が、アート分野の「広報」に応用できると考えています。専門用語が多くなりがちなアート分野の取材記事は、より多くの読者に伝えるため、執筆時の「翻訳」作業が必要になります。記事中で作家の思いを伝えることはあっても、ニュース記事自体は作家にとっての「作品発表の場」ではありませんし、記事が結果として告知の役割を果たすことはあっても「広告」でもありませんから、取材対象が希望したとしても掲載を省かなければならない情報もあります。しかも、「翻訳」作業は、あくまで主観を世に問うアーティストと、一般性・客観性を持たせながら事実状態を伝えようとする専門「外」媒体の記者の間に認識のズレが生じやすいところでもあります。しかし、アートファンのみならず、広く一般への周知に貢献する専門「外」媒体の記事を意識した広報活動は、特に地域と密接に関わりながら展開するアート事業にとっての必要性は決して低いものではないはずです。作家の意図を広く伝える役割を担う者としてのアートマネジャーが必要になってくるところかと思います。

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