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辺境の編集学~編集者・宮脇淳さん(1/2)/AKIBI plus 2017

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品川経済新聞 宮脇淳編集長(秋田経済新聞)コンテンツメーカー「ノオト」(東京都品川区)社長で「品川経済新聞」編集長の宮脇淳(あつし)さんをゲストに迎えたトークイベントが7月、ココラボラトリー(秋田市大町3)で開かれた。秋田公立美術大学(新屋大川町)が、アートマネジメントができる人材の育成などを目的に展開するアートプロジェクト「AKIBI plus 2017」の一環として、「アキビプラストーク#2/辺境の編集学~中央にないネタ探しの旅」と銘打って開いた。同プロジェクトに取り組む同大学の岩井成昭教授と秋田経済新聞(以下、秋経)の千葉尚志編集長に聴講者も交え、インターネットを通じたアート情報の発信の可能性などについてトークを繰り広げた(一部加筆修正、以下敬称略)。

■辺境芸術編集会議

辺境芸術編集会議/AKIBI plus 2017岩井「当プロジェクトは2015年から、『アートマネジメントができる人材の育成』に向けた事業に取り組んでいます。『アートマネジャー』とは、美術分野における企画・運営・検証という一連の仕事をする人です。日々、美術の世界で新しい表現がたくさん生み出されてきますが、一般の皆さんに分かりやすく解説したり、翻訳したりする『つなぎ手』になる人材は、なかなか見つかりません。そのような問題意識から始めたものです。本年は、『辺境芸術編集会議』というタイトルを付けています。これまでの2年間で行ってきたリサーチなどの作業を通じて、新しい事業を盲目的に創作しようというのではなく、既に立ち上がっているものを、よく観察・分析して、もう一度並べ替えるということを『編集会議』とのタイトルに込めました。『編集』とは、一つの比喩ですが、秋田にある文化的活動やアートに絡む動きを編纂(へんさん)して、価値を見出したり、作り出したり、これらをサポートしたりするという意味です。本年度は、秋田市・男鹿市・横手市・五城目町の県内4エリアで展開しています」

■秋田芸術新聞編集部員ゼミナール

秋田芸術新聞(秋田経済新聞)千葉「秋田市では現在、当プロジェクトの一環として『秋田芸術新聞編集部員ゼミナール』という勉強会を開いています。公募で集まっていただいた社会人や学生7人の皆さんと、取材や記事作成のスキルなどについて勉強しています。取材や執筆などの作業は、アートマネジメントができる人材にとって必要なスキルのはずです。アートマネジャーには、企画力や交渉力、広報に関する手法なども必要だと思いますが、これらのスキルを実践的に身に付けるためには、新聞記者の立場に立って取材し、実際に記事を書いてみることが有効なのではないかと考えたことから企画したものです。会場にお集まりいただいた皆さんは、ほとんどの方がアートファンとのことなので、そうであれば話は早いのですが、客観的な視点を持ちながら、文章や写真で取り組みを広く伝えようとすることは、とても難しい作業です。特にアートの分野では、作品の感じ方が人によってまちまちだからです。『秋経』では、これまでにアート分野の記事を多く取り上げていますが、それらを扱った記事のページビュー(閲覧数)は残念ながらすごく少ないのが実情です」

宮脇「品川には『原美術館』がありますが、記事のアクセスは伸びないですね」

千葉「例えば、飲食店の新店を紹介する記事などとは対照的に、ニュース記事としては市民の関心が低い分野の一つです。そこで、どうしたら関心を持ってもらえるのかについて考える場にしていきたいと考えています。今日は、受講者の皆さんに課題を出します。会場の様子を記事にするのではなく、この企画を『報道資料』としてまとめてください。報道資料については、前回勉強した通りですが、広報を目的にマスコミ向けに作成するものです。既に行われたことに関して報道資料を作成するというのは、一般的には時系列として逆ですが、テープを逆回転させるように出来事の順番をひっくり返して見つめる作業は、企画を立てる力につながるはずです。報道資料ですから、ターゲットは一般読者ではなく、新聞記者やテレビのディレクターであることを想定してください」


MINKEITV(動画ニュース)

■5つのコツ~辺境の編集学

品川経済新聞 宮脇淳編集長(秋田経済新聞)宮脇「私は東京に住んでいて、本業は情報発信することです。アート分野には全くの門外漢ですね。編集者の仕事は専門家というよりはマルチプレーヤー的なもので、書いた記事を流通させて、多くの人に広く知ってもらうこと。出身が和歌山なので、『みんなの経済新聞ネットワーク』(以下、みん経)の『和歌山経済新聞』にも携わっています。海や山に近く、人口規模や、どこかゆったりしているところなど秋田市とよく似ていますね。 ところで、私は、仕事には2種類あると思っています。しっかり稼げる仕事と、稼げないけれど面白かったり、役に立ったりする仕事の2つ。儲からないことは絶対にやらない経営者もいると思いますが、私は編集者としての仕事以外に、『コワーキングスペース』や『コワーキングスナック』の経営、横のつながりを作ることを目的に開く『ライター交流会』など、バランスを取りながら仕事するスタンスです。

さて、編集者の目線でネタを探し、企画し、アポを取って取材、原稿を書いて、編集し、最終的に読者に届けるという仕事をしているわけですが、私が20年間、かたくなに行っている5つの『ネタを探すコツ』を紹介します。

1つ目は、『キョロキョロする』ということ。これ、ライターのヨッピーさんも言っていたのですが、ネタとは1万円札みたいなものなんですね。例えば、秋田駅からここまで歩いてくるとして、みなさんにとって見慣れた風景だと思いますが、もし、道端に1万円落ちているとしたら、みんな目玉を動かしながら探すはずですよね。ネタも同じ。顔を上げてキョロキョロしていれば、何かが見つかります。

次に、『当たり前を探す』ということ。地元には、当たり前と考えられていることがいっぱいあるはずです。当たり前だから気にとめていないだけです。例えば、和歌山城には併設の動物園があります。地元民にとってこの動物園は当たり前に存在しているのですが、実はお城に併設されている動物園はメチャクチャ珍しいそうです。当たり前すぎて、地元に人たちはそれを知らない(笑)。そして、ここにいるクマも当たり前のように冬眠します。冬眠から目覚めることも当たり前。ところが、『冬眠から目覚めるクマ』を記事にしたところ、ヤフートピックスに掲載されて全国区のニュースになりました。それまでは見向きもされなかったことなのに、です。

3つ目は、『物事を斜め後ろから見る』ということ。数年前、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)研究を支援する目的で、『アイスバケツチャレンジ』という動きがネット上でありました。頭から氷水をかぶることを人から人にリレーして行い、その様子を撮影した動画がネットで話題になり、寄付金を呼び掛けるというものです。その流れの中で、ウルトラマンに出てくる怪獣『ジャミラ』が水をかぶろうとするのを必死で止めようとするシーンをフィギュアでつくり、その写真を投稿した人がいました。ジャミラの弱点は『水』なので、かぶっちゃうと死んじゃうわけです。これは、ネタの広げ方として面白く、編集者の目にも止まりやすかった例ですね。

えー、バルタンさんから回ってきたので氷水をかぶりたいと思います\はやまるな!/はこめいそーた (@nozomi0710)

4つ目は、『小さな疑問や不満を貯めておく』こと。例えば、北海道のような広い観光地を1日で回り切ることはできません。しかし、なんとかできないものかと考えたことがありました。そんな折、北海道のあらゆるものがそろう『新千歳空港』なら、その中だけで北海道を十分満喫できるのでは? と思いつき、当社の社員が空港から一歩も出ない日帰り旅行をリポートしました。このように、ちょっとした疑問や不満をきっかけに、記事になることもあります。

最後に、『どんどん情報発信する』こと。経験則として、情報を発信しない人には情報が集まってきません。誰かに話すことで、その内容に関する情報が集まりやすくなるものです。例えば、地域によって呼び方が異なる『上靴』と『上履き』。ツイッターで呼び掛けて、日本地図上にまとめた人がいます。

地図完成です~!お一人ずつ返信できなくてすみませんがみなさま本当にありがとうございました!色々間違っている部分もあるかと思いますがひとまずこんな感じです。話のネタにでもしていただければ!どうもありがとうございました! 中村ゆきひろ (@Nmurayukihiro)

秋田は『上履き』ですか?(会場から『うちズック』との声を受けて)そういう呼び方もあるのですね?(笑) この呼び掛けで、全国では唯一、和歌山だけが『バレーシューズ』と呼んでいることが分かったのです。ネタは自分だけが持っているのではなく、多くの人に伝えて、共有し、みんなで作り上げていく発想です。こうなってくると誰かに話したくなりますよね。『あるあるネタ』。『おいしそう』『かわいい』『感心する』『愛のあるバカバカしさ』『意外性』『大きい』『小さい』など…ネットでは、いい形で『ウケる』ことが大切です。でも、いわゆる『炎上』はファンを減らしてしまうので、絶対に損します。

さて、私たち『みん経』は、地元のハッピーな街ニュースを日々記録しています。東京だけでも実は30媒体以上あり、品経済新聞もいわば一つのローカルなんです。たとえば、当社オフィスがある五反田のガード下に立ち食い寿司店があります。和式だったトイレが洋式になったことをニュース記事にしたことから注目を集め、その後、契約上の理由から同店の閉店が決まったことを報じたときには、長蛇の列ができました。

五反田「立喰ずし 都々井」、トイレを洋式に改装-「ようやく座れる席ができた」(品川経済新聞)

写真提供・和歌山経済新聞和歌山では、カメラ好きの記者が10月上旬、見ごろになった『ススキ』のある風景を記事化したことがあります。

和歌山・紀美野町生石高原でススキが見頃に(和歌山経済新聞)

特にススキが好きだという人はそんなにいないと思いますが、きれいな景色で、地元にこんな素敵な景色があることを知るのは、いい気分ですよね。写真が良かったこともあって、これもFacebookでシェアされるなど話題になりました」

千葉「ススキを見ようと、あえて足を運ぶことはあまりないと思いますが、地域の一部分を情報として切り取って発信することで耳目を集めますね」

宮脇「メディアの伝える力だと思います。もちろん、現地を管理している人にきちんと取材します。どんどん突っ込んでいきます。ハッピーなコンテンツは人々を幸せにするものです」

千葉「第三者が取材するから深みが出るわけですね」

宮脇「本人が、自分で『面白いでしょう』と言っても伝わりにくいですね。そして、私たちが深く伝えることができる相手は、『ファン』だけだと考えています。そもそも、そのことに興味を持っていない人に伝えることは難しい。ですから、アート分野でも、アートに興味を持っている人に情報をキャッチしてもらうことがすごく重要です。情報過多の現在、情報はどんどん通り過ぎていきます。そのような環境の中で、どうやって情報を広めていったらいいのか。まず大切なのは、日頃から自分で情報発信することです。自分が情報発信者になって、SNSなどを活用して、まずは『隣の人』に伝えること。そして、『身の回りの誰が反応してくれるだろうか』を具体的にイメージすること。私自身が気をつけているのは、負の感情を持たれないようにするようなメッセージの伝え方でしょうか。とはいえ、当たり障りのないことや一般論ばかりを垂れ流しても、誰の心にも響かない。きれいごとではなく本音を混ぜること、さらに人のつながりが生まれる地域や仕事上のコミュニティーで横のつながりを作っておくことも大切です」続きを読む

「辺境芸術」編集会議(アキビプラストーク#1)AKIBI plus(秋田公立美術大学)

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