特集

辺境の編集学~編集者・宮脇淳さん(2/2)/AKIBI plus 2017

  • 0

  •  

■アキビプラストーク#2~トークセッション

千葉「宮脇さんの話からアートや美術という言葉が出てきませんでしたが、応用できることがすごく多いのではないでしょうか。『新聞』であれば伝える相手は不特定多数のようにも思えますが、伝える相手は『ファン』なわけですね。情報は単純に発信するのではなく、宮脇さんに教示いただいたことを応用したり、組み合わせたりしながら、企画段階から折り込んでPRに生かしていくことができそうです」

弘前経済新聞宮脇「アートということでは、『弘前経済新聞』の書道展を扱った記事が大きな話題を集めたことがありましたね。お題が漫画『北斗の拳』の技(笑)」

弘前で「自由すぎる」書道展(弘前経済新聞)

千葉「弘前で書道教室を開いている方が企画したものですね。書道に関心の目を向けてもらおうとユニークなお題を設けて開く書道の作品展。日頃から書道に取り組んでいる人以外は、脳裏から離れている分野かもしれないところ、広く書道を思い出させた功績があったのでは。書道に振り向かせる効果。これもまた、継続しないと意味がない取り組みだと思います。一度だけやって止めてしまったら、ただのお遊びのようなもので、その先には何もない。この書道教室は、斜め後ろからお題を出しながら提案し続けているんですね。残念ながら、教室の受講生はあまり増えなかったとも聞きましたが…」

会場A「私は昨年まで東京に住んでいて、品川経済新聞を読んでいました。目を引く記事であれば、興味がなくても引っかかってくれる人もいるのではないかと思うのですが。秋田に帰ってきて、これまでは気付かなかったことを見つけたり、客観的に見つめることで新しい発見があったりする体験は私もありました」

秋田経済新聞岩井「アートのネタがアクセス少ないという理由がよく分かりました。おそらくネット記事とアートの情報はコンセプトが違うようですね。『ネタを探す』ということに関しては同じです。当たり前を見直す、斜め後ろから見るというのも文化研究やアートリサーチのの姿勢と同じ。小さな疑問や不満、情報発信などもアートの発想に重要です。ただ、ネタが『ウケる』という評価基準がアートと違うようです。『ウケる』というのは、即興性が働いて、アイキャッチされて、面白いと思ってもらい、ハッピーな気持ちが残るということ。一方、アートは即興的な気持ちやビジュアルなショックも大切ですが、作品やプログラムと長時間付き合って、そこから体にしみ込んでくるような感情をより大事にするものです。『ウケる』という基準ではカバーできないところがあります。これがアートのネタが『ウケない』理由の一つなのではないかと解釈しました。ネット記事などでは、コピーやタイトルの面白さとコンテンツの内容のギャップがあることが多いように思います。コピーやサムネイルが刺激的だったので見てしまったが、ギャップのガッカリ感について、どのように考えていますか?」

宮脇「『みん経』では、そのような『釣り』記事を書かないということを前提にしていますが、『それはないんじゃないの?』と言いたくなるような記事は、ネット上にあふれているのが現実ですね。『釣り』は、長期的に見ればメディアの信頼を失い、読まれなくなってしまいます。『面白さ』については、分野のマジョリティーかマイノリティーかで違いがありますね。マイノリティーのために何かを作っていくとすれば、それは専門メディアの役割かと思います」

岩井「『みん経』の記事を読んだときの感情の残り方、ハッピーな気持ちが残ることを大切にするということですが、さらに『ものを考えさせる』『深く提案する』『疑問を呈する』ということをネット記事で可能と考えていますか?」

宮脇「(みん経は)ニュース記事なので、ファクト(事実)の積み重ねだけで構成しています。取材対象者の意見を入れることはありますが、それ以上のことは本篇から外れることなので、提案型にはしないですね。情報サイトの記事ではよく『あなたも◯◯してみませんか?』みたいな提案型の文章を見かけますが、ニュース記事にはありません」

会場B「アートに携わる人は、『ウケる』ことを考えて展覧会を開いていないと思いますが、違う面白さがあります。見せ方の何を変えれば、PVが増えるのでしょう。何がPVを下げているのかが分かりません」

宮脇「妻が現代アートを好きなので、連れ出されて展覧会に行くことがあります。行けば『良かった』と感じますが、私は連れ出してくれる人がいるから行っています。行くまでのハードルが高いんですね。情報に興味のない人に何を言っても興味を持たないとすれば、まずは本当にアートが好きな人に届けることだけを考えるべきではないでしょうか。地域やアート関連のコミュニティーで、自分なりに情報をかみくだいて直接人を誘うような伝え方といいますか。遠回りのようで、これが近い方法かもしれません」

千葉「(この場は)それをどうしようかと考える場だと思いますが、(表面的なウケを狙うような)『飛び道具』は使わない方がいいですよね。ファインアートを人に伝えるのは地道な作業。(ネット記事は)タイトルぐらいは見てもらえても、クリックして記事までたどりついてもらわないと読んでもらえないです。例えば、バラの水彩画だけを描く画家の展示会を取材したことがあります。なぜ、バラしか描かないのかを質問したら、『一番売れるから』と(笑)。この点をタイトルや本文で触れることは失礼なのではないかと、変に遠慮してしまって書かなかったのですが、もし、その本音の一言を『売れるバラの絵』とタイトルに入れたら、『どれ、買いたくなるか見に行ってみよう』と、絵に関心のない人にも伝わったかもしれなかったですね。このような部分であれば、アートマネジャーが企画に折り込んでいくこともできるのでは。メディアが取材したとき、どこにどう引っかかるのかの作戦を立てて」

岩井「一番難しいのは、当事者がそれを探し出せないことですね。作品に関わっていると、その世界が自身の中で常識化されて、斜めから見られなくなります。ですから、当事者がPRすると変な気遣いが表れて大体『紋切り型』になってしまいます。そのような視点を持つにはどうすればいいでしょう」

宮脇「編集者の立場からは、掛け合わせの視点が大切だと思います。当事者を交えた雑談をする。伝えていく手段は、一人で考えるよりも大勢で考えること。例えば、経験上は自分の方が知っているつもりでも、22歳の当社スタッフの意見の方が正しいのではと思うことがあります。若者の流行なんて、まさにそうですよね。彼や彼女たちの方が、私が見えていない世界が見えていますから」

千葉「紋切り型にはならないためには、やはり『どうしたらウケるのか』を考える必要がありますね。『釣り』の要素を一切含めず、事実だけを積み重ねて構成して、関心を引くことができるタイトルを付けられるのだろうかと」

宮脇「あとは根本的な企画の問題ですね。まずは体験してもらうことなど、きっかけになることを企画する。興味のある人が限られているという悩みは、まちづくりも近いですね。例えば、私の地元の和歌山市では、和歌山市駅前のコンビニが閉店するほど普段は人気(ひとけ)がありません。そこで地元有志が期間限定で、道路を芝生広場にする『グリーングリーンプロジェクト』を開いたところ、想像以上に人が集まったそうです。人を呼び寄せるための企画力は必要ですね」

岩井「美大の授業の中に『占い』を持ち込んだことがあります。『占い』によって学生が作る作品を決めるという」

秋田美大、授業に「占い」取り入れる(秋田経済新聞)

千葉「卑近な占いと、これとは縁遠い印象のあるアートの掛け合わせでしたね。面白いと思ったのですが、意外にPVは伸びなかったですね。今思えば、この取り組み後の変化を占い師に調査をしてみればよかったです」

岩井「私は、その記事をシェアしたのですが、ふだん全く反応を示さない知人が、『ジョン・ケージ(現代音楽家)の作品を思い起こした』などと予想外に多くのコメントを寄せてくれるなどの反響がありました」

会場C「アートとネットの親和性がどこまであるのだろうと疑問に思っています。例えば、同じプラットフォームを使っていても、私のFacebookに『ジョン・ケージ』というキーワードは出てきません。使われる言葉も文脈も違う中で、アーティストではなく、マネジメントとして、ネットはどこまで有効なのでしょう?」

宮脇「人によって見るサイトは異なりますね。このサイトだから見に行こうということは、今では少なくなってきていて、友人がシェアした記事などを見ることが増えています。情報伝達はやはりリアルやバーチャルにおける横のつながりによって広がる傾向にあるようですね」

千葉「このプロジェクトは『辺境』という地域性が題材になっているので、分かりやすくは『アート×地域』ということになろうかと思います。そうだとすると、アートに興味のない市民に対して、いかにリーチさせていくのかが頑張りどころなのでしょうね」

会場D「もし、アートという言葉が乗らないのであれば、アートとしてカテゴライズするのではなく、親子体験のように提示していくこと。携帯電話でニュースを見ると、これまで検索したワードを中心にニュース記事が出てきます。検索に引っ掛かりやすいよう、カテゴリーを広くすることも有効なのでは」

宮脇「アートとネットの相性はいいと思いますが、無理に広げようとするより、濃くしていくことが大事のようにも思います」

会場E「Facebookを使っていると、『酒田美術館』の情報がよく目に入るのです。更新頻度など、宣伝活動としてしっかりしている印象があります。ときどき『青森美術館』も見かけますが、秋田の情報は入ってこないのです。宣伝活動をしっかりまずやることが必要なのでは」

宮脇「当社でもSNSの運用を業務として行っていますが、更新頻度や使う写真など戦略的に活用しています。フィードに流れやすくなるよう、まずは『いいね』を押してくれる人に届くルートを作っています。しっかり研究して、既に人が大勢集まっているSNSなどのプラットフォームを活用することも大事ですね」

千葉「情報を届けるというのは、そもそも遠大なテーマで、今日は不完全燃焼感も否めないのですが、これも編集会議かもしれません。考えるきっかけにしていただければ」

岩井「決着の付かないテーマですね。アートの外にいる人との違いをしっかり見ることが、共存する近道だと思います。漠然と『似たことがあるよね』だと進まない。違いを見極めるところから、活用できる仕組みが見えてくるように思います」

*****

次回「辺境芸術編集会議/アキビプラストーク#3」は10月7日、「子育て視点は芸術家の視点!?~子育てを通して発見+発信するためのスペシャルトーク」と題して開催予定。
【日時】10月7日(土)14時30分~17時(開場14時)
【会場】フォンテAKITA 美大サテライトセンター(秋田市中通2-8-1)
【ゲスト】相馬千秋さん(アートプロデューサー、NPO法人芸術公社代表理事)、イシワタマリさん(美術家、山山アートセンター代表)
【定員】50人
【入場】無料

「辺境芸術」編集会議(アキビプラストーク#1)AKIBI plus(秋田公立美術大学)

  • はてなブックマークに追加
エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース