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秋田の「まちなか演劇」~劇団プロデュースチーム・ウィルパワー

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■秋田で活動すること~離れたメンバーともつながること

-劇団プロデュースチームとは何ですか?

秋田経済新聞加賀屋「もともとは自分が書いた作品を上演したくて、劇団というよりは個人プロデュースの演劇チームとして始めたのが『劇団プロデュースチーム・ウィルパワー』です。基本的にオリジナル作品を書き下ろして、演劇に興味はあるが劇団に参加してないという社会人や演劇部の大学生に作品ごとに声をかけて上演してきました。そのため、今でも劇団プロデュースチームを名乗っています」

-メンバーは何人ですか?

加賀屋「宮城や茨城、静岡などに転居したメンバーも合わせると10人ぐらいですが、地元でレギュラーで活動しているのは6人です。県外へ出てしまったメンバーともなるべくつながりを持ち続けるようにしています。台本を依頼したりすることもあります。日ごろのけいこを一緒にできなくなっても、関係がまったく途切れてしまうのは辛いので…」

-加賀屋さんと演劇との出会いは?

加賀屋「中学生のころ、NHKの深夜番組で見た井上ひさしさんの作品『きらめく星座』に感銘を受けたことです。ミュージカルとも違いますが、歌や踊りの演出を舞台に必然性のある形で織り込んだ作品で、それまで演劇に興味なかった私ですが、『こんなに面白いものがあるんだ!』と」

-それから演劇に夢中になった

加賀屋「そうですね。高校時代には演劇部に入部しながら、勉強の意味も含めて『秋田市民劇場』という劇団にも在籍しました。演劇の魅力は、生身の人間が観客の目の前で表現できることです。観客の視点から言えば、目の前の人が動いて、目の前で事件が起こるのが演劇。言葉や思い、役者の息づかいまでも伝えることができます。映画やテレビでは伝えられないことを伝えられるのが魅力です」

■演劇を続けること~心の中の年輪を重ねること

-日ごろのけいこはどのように行っていますか?

秋田経済新聞加賀屋「直接演技にかかわらない部分でも、メンバー間で疑問を共有することが大事なので、できる限りメンバーを集めて行います。そうすると演技のイメージも作りやすいです。1回の公演のためには、脚本ができてから3カ月ぐらい費やします。メンバーはそれぞれ本業を持ちながらなので、実質で言えば1カ月ぐらいで仕上げています」

-演出や演技指導で気を付けている点は?

加賀屋「自分の書いた脚本や演出が、思わず役者の心の琴線に触れてしまうことがあります。役者は自分の過去の記憶を手掛かりに演技するので、感覚とか物事のとらえ方など表現の仕方は十人十色。特にアマチュア劇団では、演出家の思いがすべてではないわけですから、演出家の意図と違うものを役者が演じることも当然にあります。ただ、そこで演技内容を演出家に指摘されると、役者は自分自身を否定されたように感じてしまうこともあります。気持ちを強く持って感情をコントロールできるようにならないと、役者としては難しいこともあります。あと、役者が台本を読んで『この話を聞くと泣いちゃう』となられては困る(笑)。精神面も含めて、やはり普段からのトレーニングが大事です」

-なるほど

加賀屋「逆に、演出家の意図が演技に反映されないとすれば、演出家が役者にうまく説明できてないからとも思います。役者が理解できるためにはどうすればいいかを考えるのが、私の役割。その場面で求められるものや現状の問題は何なのかを考えながら、役者も演出家も一緒に成長する場がけいこですね」

-けいこで怒ることはありますか?

秋田経済新聞加賀屋「私のスタンスとしては、作品づくりの過程で怒鳴ったりすることはありません。けいこ中にモノを投げたり怒鳴ったりすることで有名な演出家では蜷川幸雄さんがいます。私たちはアマチュアですから、演出家も絶対的な権力者ではないですね。ただ、メンバーの演劇に向かう姿勢がよどんでたりすると、かなりきつく言うこともあります。特に私たちはけいこ場を開放してるため、見学のお客さんもよくいらっしゃいます。メンバーがお客さんにあいさつもしないようなときなどは注意します。劇団として、礼儀をもって外に向かって皆さんとかかわっていかなければならないと考えるからです」

-地方を拠点にしたアマチュア劇団としての課題はありますか?

加賀屋「どこの劇団も似たような課題を持っていると思いますが、なかなか新しい団員が入ってこない。このことで劇団のカラーはブレない濃厚なものになる反面、新しい考え方を受け入れられなくなったり、メンバーの演劇に対する考え方も固まってしまいがちになったります。逆に演劇は私が信じいてる道・世界なわけですが、何て言うんでしょうか…。夢中になってかかわってるものだから、自分では気がつかないうちに外部の人には理解してもらえないこともあります。『何が目的でやっているの?』『どこが面白いの?』と、冷やかに見られることも…。劇団内部でも目的を見失ってしまうメンバーはいますが、この解決がもっとも難しいところです」

-社会人になると演劇から離れてしまう人も多いのでは?

加賀屋「そうですね…。演劇は本番だけでできるものではない。同じことを何カ月もかけて繰り返し練習しなければならない。そのためには仕事が終わった後の時間を使わなければならないし、家庭を持ったりすると家族の理解も得なければならない。かかわっているだけでも大変かもしれません。日常生活だけでもストレスの社会なのに、劇団によっては演出家に怒鳴られたりもする(笑)」

-加賀屋さんはなぜ続けてこられたと思いますか?

秋田経済新聞加賀屋「私も止めたいと思ったことは随分ありましたが…。ただ、長く続けられる人は、演劇が自分にとってどれだけ大切なものかを説明できて、家族や周囲の人に受け入れてもらうことができている人だと思います。私自身は『演劇が好きな心の構造』になっている(笑)。演劇を長年続けていると、うれしいとか悲しいとかの感情が幾重にも重なって、心があたかも樹木の年輪のようになっていくように感じることがあります。だから、演劇を続ける中で辛いことがあって、年輪の表層がピリっと割れたとしてもすぐに回復する。長く続けると厚みが出てきて、傷付いたときの回復も早いものです。これまでのメンバーには、簡単に止めたいと言ってしまう人や実際に止めてしまった人もいますが、もう少し続けてから決断しても遅くないのに…と思います」

-加賀屋さんは家族にも恵まれている?

加賀屋「結婚10年になる妻には『いろいろ考えるところがある』と言われることもありますが(笑)。そもそも妻とは演劇で出会った経緯もあって、演劇の世界を知っている人なので…。」

■ウィルパワーが目指すこと~人がいる所に演劇を持って行くこと

-これまでの公演で特に印象深かったことは何ですか?

秋田経済新聞加賀屋「やはり観客の反応がいいときはうれしいですね。5年ほど前から、公演で観客の皆さんにアンケートに答えていただくようにしているのですが、多くの観劇をしてきた人に『これまでの観劇で一番楽しかった』と答えてくれた人がいたことは、本当に励みになりました。逆に辛かったことは、今でも思い出すと滝のように涙が出ることばかりですよ(笑)」

-これから「ウィルパワー」はどこを目指しますか?

加賀屋「私たちの目標は、大きな舞台に立つことではありません。『人のいるところ』で演劇することを大切にしています。もちろん、大きなホールで演じるのもいいですが、私たちの原点はやはり『まちなかの演劇』。街中にいらっしゃるお客さんに見てもらって、私たちを支えてくれてるのは街中のお客さん。劇場で上演してお客さんに『来てよ』と言うのではなく、人がいるところに演劇を持って行くというスタンスを忘れないようにしたいです。これからも秋田の皆さんを前に、自分たちの言葉と体を使って表現していく姿勢をどこまでも追求していきたいです」

-ありがとうございました。

秋田経済新聞

【あとがき】

「街中の演劇であること」「心の年輪を重ねること」「けいこは役者も演出家も一緒に成長する場」など、困難を乗り越えながら地方都市で劇団運営を継続してきた加賀屋さんの言葉が印象に残った。「劇団プロデュースチーム・ウィルパワー」の新作に期待したい。

秋田の劇団「ウィルパワー」が15周年-秋田・仙台で記念公演(秋田経済新聞) 劇団プロデュースチーム・ウィルパワー ウィルパワーの「けいこの時間ですよ~!」(ブログ)

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