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インタビュー2015-07-17

秋田から世界を見る~トラパンツ・長谷川敦さん

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 2000年、秋田市内で「ホームページ制作代行業」として創業したウェブプロダクション「トラパンツ」。全国広報コンクールで総務大臣賞を受賞した「秋田県庁」のウェブサイトなど多くの制作実績を持つほか、2011年には人材育成機関としてコンテンツスクールも開校。2012年、岩手支社(盛岡市)も立ち上げた。ユニークな社名通り社内外でさまざまな事業を手掛ける。今年15周年を迎えた同社の長谷川敦社長に話を聞いた。(以下敬称略)

■何をやるかよりも誰とやるか

-創業15周年、おめでとうございます

秋田経済新聞長谷川「ありがとうございます。既に16期へ向けた業務も始まっていますし、これは通過点でしかありません。ただ、家族には心配をかけ、地元の皆さんに支えていただきながらここまでやってこられたことへのお礼とごあいさつがしたくて、あえて通行人から見えるオープンスペースで記念パーティーを開きました」

-起業のきっかけを教えてください

長谷川「4年間だけなのでアシスタントレベルですが、地元の会計事務所で経営コンサルタントとして働いていました。起業したのは26歳。8歳のころには会社を作りたいと考えていたんですよ。現在の社名も小学生のころに友達と作った野球チーム名『トラパンツ工業高校』から。私にとって重要なのは、『何をやるかよりも誰とやるか』ということでした。そのため、創業メンバーをスカウトするところから始めたのです」

-創業メンバーのスカウトとは?

長谷川「当社専務の奈良真は高校時代の友人ですが、進学で県外に出ていたので秋田に連れ戻そうと計画を立てました。地元の就職情報を提供するなどUターン支援を(笑)。今も一緒に働くのは私も含めて夏井麗ら3人ですが、当初4人で起業しました。思えば、10~20代から今の組織づくりの準備を始めていましたね」

■反対されることは成功する

-事業分野はどのように決めたのですか?

秋田経済新聞長谷川「『屋台村』や『クリーニングFC店』の経営など前職時代に数十件の事業計画を立てていました。創業メンバーで検討を重ねて、『ホームページ制作代行業』と『おにぎり店』に絞りましたが、『おにぎり店』を始めるのにもインターネットの活用は必要だろうと制作代行業に決めました。あと、『やっぱこれからはITだよなぁ』という雰囲気もあって(笑)。今では『ウェブプロダクション』のような言い方も一般的ですが、当時はまだ適当な言葉がなかったので『制作代行業』。新しい事業分野で競合が少なかったこともあり、地元の伝統ある企業に出向いても営業しやすいイメージが浮かんだことも決め手でした。例えば、自動車販売業などは難しいだろうと」

-時流を捉えたわけですね

長谷川「それが驚くべきことに、周囲のほとんどから反対されたのです。当時でも既に多くの会社ではホームページを持っていましたし、近い将来には各社が自前で作ることができるようになるはずだからと。ところが、15年を振り返ってみてどうでしょうか。需要がなくなるどころか、業績はいまだに右肩上がりです。今では『反対されることは成功するものだ』と思っています」

-業界には短命に終わった会社も少なくないようですが

長谷川「そうですね…。破たんする会社は人事と財務に欠陥があるのではないかと思います。経営者として何らかの手落ちがあったはずです。私は事業アイデアではなく、組織を組み立てることから始めましたし、前職の経験から財務感覚も大切にしています。少なくとも事業アイデアが先行するタイプではなかったことが良かったのかもしれません」

-創業時には苦労もあったのでは?

秋田経済新聞長谷川「これほど確かなものはないと自負する事業計画を立てて起業しましたから、簡単に破たんすることはないだろうとの確信はありました。それでも1・2年目ぐらいまでの資金繰りには苦労がありましたよ。当初の役員報酬は月7万円余り。私は妻の扶養に入っていましたし、業務用のパソコンを購入するために創業メンバーの失業保険を回収したことも(笑)。ただ、借り入れはしない方針でした。今も無借金を続けています。これも仲間がいたからできたことです。一人では無理でしたね」

-無借金の方針はなぜですか?

長谷川「例えば、2億円の売り上げに対して1億円の借り入れをしたような場合、極論すればいずれ上場するしかなくなるはずです。そして、ITバブルも含めてバブルと同様の経営発想につながっていくのだろうと思うのです。私は会社の目標を単なる金もうけに置きたくありませんし、会社がそのための手段とは考えたこともありません。ベンチャーである以上、事業を継続できる裏付けがあればそれもいいと思いますが、当社の考え方とは全く違うのです」

-ところで、長谷川さん自身はクリエーターではないのですね?

長谷川「以前、社内で自炊していたので『昼飯クリエーター』です(笑)。確かに同業の経営者にはクリエーターも多いですね。創業当初には私も技術的な作業も行っていましたが、その後、創業メンバーが作業現場から私を切り離すことを考えてくれたのです。経営者と技術者は役割が違うからと。仲間との信頼関係があったからできたことだと思います」

■戦う秋田人

-組織づくりで気を付けている点を教えてください

秋田経済新聞長谷川「現在、32人の社員を7チームに分けて業務をこなしています。当社の強みは総務部ですが、チーム間の兼任もあります。私の仕事は、社員が仕事をしやすい環境を用意してモチベーションを上げてやることです。例えば、社員が助け合いながら、前向きに楽しんで仕事を進めることができるよう、社内に『きづな』が生み出されるような社風をつくることです」

-社員に厳しいことを言うことはありますか?

長谷川「起業前の上司が毎日怒っているような人でしたので(笑)、私はなるべく怒らないようにしています。ただ、人事面では苦労しなかったことなどないですよ。当社のスタイルが行きわたる10年目ぐらいまでは苦労が多かったです。仕事の自由度が高い当社は『社員を大切にする会社』だと勘違いされることがあります。社員を大切にすることと、社員が単に楽をすることは違います。私は『ぶっこみ力』と呼んでいますが、仕事ですから厳しいですよ。多少の無理もしなければなりません。私は『戦友』『戦う秋田人』を大切にしているのです。『戦友』と呼べるまで頑張った社員が退社することはほとんどありませんね」

-採用で気を付けている点は?

長谷川「社風に合った雰囲気を持つ人を採用するようにしています。同じタイミングで笑うことができるようなイメージ。人事評価で見本にしている県外の会社が2社あります。両社のシステムを足して2で割ったような仕組みを採用しています。あと、私より年上は採用しない方針です。私はいわゆる体育会系ですから、年上の社員がいたら変に気を遣ってしまいそうなので…」

■天才的なバランス感覚を磨け

-事業計画の立案や実施はどのようにしていますか?

秋田経済新聞長谷川「私はプロジェクトマネジャーではないので、個々の事業計画を立案することはありません。これまでで私が立ち上げた事業は『イーストベガス推進協議会』(カジノを含む統合型リゾート推進事業)ぐらいですね。社内事業のほとんどは社員が担っています。社員の成長のためにも信頼して任せなければならないと思っているのです」

-アドバイスを求められたときはどうしますか?

長谷川「社内のブレーンストーミング(集団でアイデアを出し合うこと)にも一切参加しないんですよ。あくまで社員が考え、結果の報告だけを受けます。もちろん、それが事業としてバランスを欠いた内容だった場合には止めます。私はリアリストですから、夢レベルのアイデアにインテリジェンスの要素を加える作業、アイデアの暴走を止めるのが私の仕事ですね。社員にも『天才的なバランス感覚』を磨くよう伝えています」

■秋田から世界を見る

-長谷川さんは地元志向が強いようですね

秋田経済新聞長谷川「私は大学まで地元の学校でしたが、ほとんどの同級生が進学・就職で県外に出ていきました。高校卒業時には、県外へ進学する友人を同級生と一緒に毎日のように秋田駅へ見送りに行っていました。すると、日に日に見送る側の人数が少なくなっていくのです。とうとう最後には私だけになってしまいました(笑)。それは寂しかったですよ…。みんなが出て行ってしまう秋田。どうにかしたいとの思いが強まったころです」

-東京への憧れのようなものはありませんでしたか?

長谷川「なかったですね。理由はありません。私が秋田にこだわっているのは、誰でも持っている郷土愛、人間の本質的な欲求だと思います。シリコンバレーへ行ったときに気が付いたのですが、世界的なIT企業を見渡してみても、故郷で仕事を始めた経営者は多いようです。地元から世界を見ることができているのです。日本だけが東京にしばられているように感じますね。地方でも、若くても、お金やその他のリソースがなくても、会社を立ち上げて成長発展させられるんだということを今の会社で証明したいのです」

■夢見るリアリストであれ

-若い世代の皆さんにメッセージをお願いします

長谷川「仕事は夢とは対極にある非常に現実的なことです。ただのファンタジスタではだめで、一方、ただのリアリストも実務家でしかない。『私たちは夢見るリアリストでなければならない』と社員に話しています。小・中学校で講演することもありますが、『秋田でできないことなど一つもない』と話すと、『うそー』との声が返ってくることもあります(笑)。私は『(秋田弁で)見ててみれ!』と。一人一人が自分たちで成長発展させていくしかないんですよ。これからの当社はウェブ制作会社というだけではなく、未来の秋田を創るために足跡を残していくようなことができればと考えています。そして、これからの地元を担う意欲ある若者が増えていってほしいですね」

-ありがとうございました

長谷川敦

【インタビューを終えて】

「より多くの雇用を地元に生むことが起業家の使命」と話す長谷川さん。創業以前から取り組む「カジノを含む複合型リゾート推進事業」を始め、長谷川さんの活動フィールドは広い。長谷川さんと同社の次の一手に注目したい。

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