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秋田の農業は高収益化を目指せ~佐藤良一さん+AKITA45

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 大手企業を退社後、秋田県美郷町に帰郷して起業し、現在、独自の発想で農業を手掛ける「秋田食産」(美郷町)を経営する佐藤良一さん。1月には、イチゴ狩りが楽しめる農園「フルーツパークDETO(デト)」を潟上市に開設するなど、農業の高収益化を目指す取り組みに注目が集まる。「稼げる農業」「スマート農業」などをキーワードに、秋田市でさまざまな分野で地域課題の解決に取り組む任意団体「AKITA45」のメンバーで、社会起業家の武内伸文さんと対談した。

※この記事は、2021年2月に行った秋田経済新聞主催オンライン対談の内容を基に、一部加筆して再構成したものです。

佐藤良一(さとうりょういち)さん/株式会社秋田食産 代表取締役
1960年、仙南村(現美郷町)生まれ。大手運送会社の支店長として県外勤務などを経て、2007年に帰郷。スポーツユニホームのデザインや加工を手掛ける株式会社みさとマークを起業。「耕作放棄地がもったいない」と農業分野への参入を目的に2013年、株式会社秋田食産(同)を設立し、2018年から南国フルーツの栽培を始め、2021年1月、潟上市内にイチゴ狩りができる農園「フルーツパークDETO(デト)」を開設。ITを活用するなどした農業の高収益化を目指す。

武内伸文(たけうちのぶふみ)さん/社会起業家、前秋田市議会議員
1972年、秋田市生まれ。青山学院大学法学部卒、英国カーディフ大学大学院「都市・地域計画学部」修士課程。「組織・人の変革」を専門に外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアなどを経て、2015年から2021年2月まで秋田市議会議員を務める。「次世代につながる地域づくり」をテーマに、広範な分野で社会活動に取り組む。


武内 イチゴ狩りのできる農園が話題を集めていますね。週末などは予約で埋まっているのだとか。佐藤さんは、もともと農家ではなかったそうですね。

佐藤 私は、転勤で県外を回りながらサラリーマンをしていました。16年ほど前に秋田県美郷町に帰郷しました。その際も農業に取り組みたかったのですが、双子の息子がまだ中学生だったこともあり、地元で堅実に稼げる仕事をと、スポーツユニフォームの制作を手掛ける会社を立ち上げました。その後、息子が大学を卒業し、教育費も掛からなくなったことから、念願の農業を始めました。ただ、農業者の認定を受けなければならず、これにちょっと時間がかかりました。
 農業を始めた当初は、直ちに需要のある無農薬のベビーリーフを栽培しました。結婚式場の料理で使うとのことから、半年ほど栽培して出荷していましたが、収穫のタイミングと出荷サイクルを合わせにくいことなどから止めました。もっとも、無農薬の商品を扱うのは難しいことは承知していましたし、利益につながりにくいだろうとの予想もできていたので、並行してダイコンを栽培して、販売しやすい「いぶりがっこ」を作っていました。その後、株式会社化して、東京生薬協会(東京都小平市)や龍角散(千代田区)と当町で連携協定があることなどから、今では生薬も作っています。

武内 佐藤さんは、「雪国バナナ」とのネーミングで販売するバナナも作っていますが、皮まで食べられるそうですね。

佐藤 雪国の秋田でバナナを栽培していることに驚かれることも多いのですが、私としては、突拍子もない話ではないと思っています。暖房を使って、葉物野菜やウドなどを育てている方もいらっしゃいます。イチゴなどは県内で数えるほどの業者しか作っていませんが、これも同じく寒い秋田で作っていますよね。栽培手法が確立されているのか、販売ルートあるのかという差から、作っている人が少ないというだけのことです。バナナもなんら変わらないじゃないですか。皮まで食べられるというのは、皮の方が栄養価は高く、無農薬のため捨てるのはもったいないということなんです。でも、サクサクしていて、実と一緒に食べるとおいしいですよ。もちろん、皮だけを食べると「やはり皮だなぁ」という程度のものですが(笑)。あるテレビ局の番組で、当社のバナナを大森山動物園(秋田市浜田)の動物に食べさせるという企画があったのですが、動物園のサルは、皮を剥いて食べていました(笑)。

武内 佐藤さんの取り組みは、固まった既成の概念ではないところにチャレンジしている点が素晴らしく感じられます。

佐藤 農業に参入して間もないこともあって、買値や農業のさまざまな知識もないですが、マーケットの側から考えることと、コストについて考えることを大事にしています。だから、バナナを栽培することは何もおかしなことではないんですよ。

武内 ものを作るとき、どのようなものが、どの時期に、どれぐらい売れるから作るという、逆算する考え方が大事なんですね。私は、農業については、オランダのモデルを参考にすることがあります。国土の小さな国ですが、アメリカに次ぐ農業生産国とも言われています。オランダでは、まず、商品となる生産品を選ぶのだそうです。イチゴ、パプリカ、キュウリ、トマトの4品目だけで、栽培面積の4分の3を占めています。これらを生産するための施設を作り、世界の需要、マーケットの状況を調べて、どのタイミングが一番高く売れるのかまでを考えて販売しています。

佐藤 今さら、私が口に出して言うことでもないことですが、秋田は稲作の割合がかなり高いですね。それはそれで、さまざまな努力をされていると思いますが、米と一緒に路地ものを栽培するというのは、天候の影響を受けやすく、数年に1度は、どうしても大幅に減産してしまいます。これでは先が読めないので、施設を作って管理する農業に転換することが必要かもしれません。そうすることにより、これまでの倍とまでは言わないまでも、これに近い収穫も可能になってくるはずです。また、労働力も軽減されていくと思います。

武内 これからは、ICTを使った農業「スマート農業」が主流になっていくものと考えています。これまでは、熟練した人しか分からない作業もありましたが、例えば、管理の面で自動的に制御してくれるセンサーを使うなどして、人がいちいち手を掛けなくてもいい部分が生まれてくるはずです。

佐藤 私も温度計を持って歩いているわけではなく、体感で、温度や湿度などを感じて、施設を開けてみたり、下げてみたり、いろんなことしているんですね。でも、こうして取り組んできたことをデータ化してみると、データの方が正しいこともたくさんあるわけです。当社では、肌で感じたことで間違うよりも、データの力を借りて、一極集中させながら全体を管理するという形を取っています。昨年は、当社ではイチゴ農園を運営していませんので、他所からデータを借りてプログラミングして一元管理しています。現在、私よりも若く、プログラミングなどに手慣れている男女4人が担っています。皆さん、農業経験は全くないんですよ。

武内 経験が浅かったり、全くなかったりする人が農業に取り組めるということは、画期的なことですね。新たなワークスタイルとして、参入者を増やすことにつながりそうです。農業の担い手が少ないと言われて久しいですが、先端技術を使うことで、この傾向も変わってきそうです。秋田で生活の糧を得る手段を考えたときに、目の前にある農地を使わない手はありませんから。

佐藤 そうですね。農地しかないぐらいです。ないものねだりすることはないんです。あるんですよ、農地がいっぱい。勉強のため、全国のさまざまな農場を見学させてもらいましたが、やはり、施設のしっかりしたところには若い従業員が多くいて、施設全体が明るく、楽しそうに見えるんですよね。私よりも上の世代が同じことをやるのとは、印象まで異なると感じました。

武内 これまで、脈々と使われてきた秋田の農地を耕作放棄地にすることなく、新たな技術を使って、積極的に活用していくこと。魅力的で稼げる仕事にしていくことが大事ですね。そして、新たに始めるときには、戦略的に取り組む必要がありそうです。
 東北6県の農業生産出荷額を見ると、秋田県は最下位という衝撃的な状況です。理由は、秋田の農業が稲作一辺倒で、それ以外の生産物が非常に少ないからです。青森県の出荷額を見ると、12品目ほどが70億円を超えています。一方の秋田は、米とブタがかろうじて70億円。

佐藤 20年ほど前の統計を見ると、秋田がトップなんですよ。しかし、出荷額の1番は今と同じく米なんです。先を読んで転換することができなかったことが、東北で最下位との現状につながってしまったのでしょう。

武内 青森では、海外への輸出を視野に入れた産業の育成をしています。これからは日本の市場だけではなく、どの生産物をどこの国に売るのかという考え方で、出荷額を増やすことに力を入れたいですね。

佐藤 戦略的な農産品を作り上げていかなければならないです。農業以外の分野では、マーケティングし、需要を決めてから取り掛かるのが常ですが、作りやすいものを作るというやり方をしているのは農業ぐらいです。

武内 作りやすいものが稼げるということではありませんから、市場を分析していくことが重要ですね。国内の事情は少し異なりますが、世界を見ると人口は増えています。人口が爆発して、食のスタイルが変わってくると、同じようなものの需要が高まる。そうすると、日本に必要なものが回ってこないことも考えられます。そこでは、自給自足の大切さ増してきます。食料不足も視野に入れないといけません。一方で、これを見越して輸出するという考え方もあるでしょう。米一辺倒が絶対に悪いということでもないと思いますが、グローバルな視点を持って考えることは大事ですね。

佐藤 農地は、一度放棄地にして荒らしてしまうと、耕作を再開するためには、あまりにも時間がかかり過ぎますので、放棄地になることだけは避けなければならないです。そのためには、農地を耕してくれる人を求めなければならない。農業を商売として考えたとき、赤字の分野は誰もやりたがりませんので、今後、ある程度のモデルケースを作り上げることが必要です。

武内 そのためには、これまでの農業から、ビジネスとしての側面を前面に出した農業であることが求められそうです。そこでは、ICTを活用したスマート農業が、これを加速させていくのだろうと考えています。
 秋田市の外旭川地区の広大な農地を商業施設にするような話も出ていますが、秋田の資源として、農業生産拠点のようなことも考えられると思います。卸売市場が隣接していますので、地の利を生かしたスマート農業の拠点としたり、佐藤さんが成功されているような観光農園を併設したりすることもできるでしょう。秋田市でも、戦力作物はやっています。これにグローバルな視点を加えて、GAP(Good Agricultural Practices、農業生産工程管理)をしっかりすること。これらの部分は、行政の役割も必要だし、専門家とのネットワークを作ることも必要でしょう。

佐藤 成功の定義が何なのかということはありますが、栽培して、販売するところまではできました。世界的な認証を得るため、当社のバナナ園もGAPに取り組んでいますが、ハードルは高いですね。成功したよという事例を見せられる誰かが、何人か出てくることを期待したいですね。

武内 秋田にとっては、佐藤さんのような取り組みをフォローする人々が増えていくことが成功の一つだと思います。秋田が全国に誇れる価値を残していきたいです。

――ありがとうございました。

秋田食産

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