特集

Aging & Mixture #03 Dai TAKAHASHI

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記事提供:秋田芸術新聞

「超神ネイガー」共同原作者の高橋大さん(右)と金紋秋田酒造の佐々木孝社長(左)

パリのミシュラン三ツ星レストランに「熟成古酒」が納品されるなど、近年、注目を集める秋田県大仙市の「金紋秋田酒造」。30年に渡り熟成古酒の製造にこだわり続ける同社・佐々木孝社長の異業種対談シリーズ3回目のゲストは、プロジェクト運営15年目に入った秋田のご当地ヒーロー「超神ネイガー」共同原作者の高橋大さん(以下、敬称略)。

15年と30年

佐々木 短期間で終わってしまう取り組みも多い地方にありながら、これほど長きに渡ってネイガーが支持されていることに驚いています。

高橋 ネイガーの共同原作者の海老名保さんから声を掛けられたことをきっかけに始まったプロジェクトです。私も地元の友人らに「ヒーローごっこやるから、みんな手伝って」と声を掛けるぐらいの軽いノリでした。ただ、私はヒーローになることをゴールにしていたわけではなく、今でも、ネイガーを使って何をやろうとか、何ができるのだろうとか考え続けています。ネイガーは製品として完成しているものではないので、テストをずっと続けているような状態です。日々メンテナンスを続けているような。原作者の一人として、ネイガーにしがみついているんですよ。

「超神ネイガー」(左)と共同原作者・海老名保さんが展開する「東北合神ミライガー」(右)

佐々木 マスクや衣装などの造形も素晴らしいですが、かなりコストがかかっているのでは?

高橋 お金というよりも手間がかかっていますね。石膏で型取りして、樹脂を貼って…FRPでボートを作るような作業です。根性で研磨するから曲面などはなめらかです。ネイガーの運営を始めた当時の地方の取り組みとしては、これだけ手間をかけたものは珍しかったのではないかと思います。現在では3Dプリンターで作ることもできるかと思いますが、手作りのヒーローらしく、形が多少いびつでもいいのだとの気持ちで作っています。当時は、造形の素材にFRPをよく使っていたのですが、ステージショーでアクションを伴うことから壊れやすく、とにかく重い素材でした。最近は、軽いウレタン素材で作ることが増えました。ネイガーの重量は、当初の5分の1ほどにまで減量しているんですよ。少しずつ改良しています。

佐々木 手間をかけたり、改良を施したり、地道に活動したりしながら、秋田で必要なポジションになっていったんですね。

高橋 ネイガーのテレビ番組が作られるようになる前は、地元の夏祭りのような町内イベントなどを中心に回っていました。これは今でも続けています。ネイガーショーは、いうならば町内に残る御神楽や獅子舞いのようなものなのかもしれません。

佐々木 ネイガーの活躍を見ていると、人が求めるものは何なのだろうかとか、どのようなものが受けるのだろうかとか…考えさせられることが多いです。

高橋 まず、私自身が楽しんでいますね。楽しんで取り組んでいると、その様子を見た人たちが自然に集まってくれるんですよ。あまり受けを狙って無理するとうまくいかないように思います。ネイガーには一時、大きなブームもありましたが、私たちも、なぜこんなに受けているのかについては分析する余裕もないままでした。ブームは、(コンテンツや商品の)寿命を短くしてしまいがちなものですが、ネイガーを100年耐えられるヒーローにしたいとの夢はあるんですよ。「なまはげ」の歴史は200年とも400年とも言われます。ネイガーは「重要無形文化財」にはなれませんが、「荒唐無稽(こうとうむけい)文化財」ぐらいになれれば(笑)。

佐々木 やはり、これほど続くキャラはすごいですよ。でも、ファンに飽きられることはないですか?

高橋 2005年から始めたネイガーの活動も今年(2019年)で満14年になり、かつての子どもたちも大人になりました。成人式会場で再会することもあるのですが、成人になった皆さんからは「(ネイガーを)まだやってたのか」と半ばあきれられることも(笑)。ところで、私が「熟成古酒」を見て感じたのは、正しい価値の付け方をされているんだなということです。長い時間をかけたものを、しっかりとした価値に変えていますよね。私たちはネイガーが流行っているのかどうかに関わらず、私たち自身がやりたいから続けていることなのですが、金紋さんが30年に渡って熟成古酒にこだわり続ける動機はどのようなものでしょう?

佐々木 30年ほど前のことになりますが、東京で「熟成古酒」の研究会を主宰する人の話を聞いたことがきっかけです。その人は秋田県の出身で、私の父の友人でもありました。話を聞いているうちに、それまで私が漠然とイメージしていただけだった日本酒のあるべき姿を得た思いにいたったのです。熟成古酒作りについては、その後、その人から直々に学ばせていただいていました。日本酒の本質であるうま味や香りなどの成分のうち、日本酒ならではの長所は、米が持つうま味のはずです。もちろん、ただ古くしてしまったものはおいしくないですが、しっかりと熟成を重ねることで、より強いうま味成分が形成されます。これがあるから、日本酒にはバリエーションができるわけです。そして、どの国でも「国酒」と呼ばれるものは万能な扱われ方をします。日本では馴染みが薄いですが、例えば、ワインやウイスキーなども温めたり、ほかの何かと混ぜたりして楽しまれていますね。

規定せず、委ねる

高橋 熟成古酒は万能なもので、料理にもよく合うというのは、国外で評価が高まる理由の一つになっていそうですね。

佐々木 国内では近年、香りを求めた銘柄の人気が高いのですが、かつてはうま味を追求した銘柄が多く、料理と合わせて楽しむ食中酒として親しまれていました。本来の日本酒は、さまざまな料理と合わせて楽しめるものです。意外に思われるかもしれませんが、焼き肉に合わせて飲む日本酒はおいしいですよ。熟成古酒は、チーズにもご飯にも合うので、リゾットに合わせると本当においしい。さまざまな料理に合わせて試してもらいたいのです。

高橋 ネイガーも、さまざまな場面で自由に扱ってもらいたいんですよ。「なまはげ」も地区によって顔かたちが異なるように、みんなが「ネイガーだ」と思えるものであればどんな形でもいいんです。そもそもネイガーの決まりごとは「なまはげをモチーフにした秋田のヒーロー」ということだけ。もちろん著作物の侵害がないようにだけ気を付けてもらえれば。

佐々木 ファンやお客さまに委ねる部分が大きいところなど、ネイガーと熟成古酒は似ていますね。

高橋 (キャラクターや日本酒は)どうしてもうんちくを語りたくなる世界になりがちではありますが、提供する側が、その扱い方をあまり規定し過ぎないことが大切かもしれないですね。

佐々木 日本酒は本来、もっと自由な酒だったはずなんですよ。しかし、お客さま自身の舌で楽しむより先に、耳で規定されてしまうような時代です。これでは順番が逆のように思いますね。

高橋 熟成させるという意味で、古酒はウイスキーにも近い。色からして似ていますね。横文字を使った銘柄のネーミングやラベルの記号も面白いし、一目で独自性が伝わるものになっています。

佐々木 ウイスキーのような印象を持ってもらえるとすればうれしいです。どのように固定観念を打破して、さらに進化させていけるのか…。近頃では日本酒の銘柄に横文字や記号を使うことも珍しくなくなりましたが、当社は、その「はしり」だったのではないかと思います。最近では、あえて漢字のラベルに戻すこともしています。どの業界も似たようなものかもしれませんが、酒蔵は同じ方向を向きがちなんです。私は酒蔵に生まれたため、子どもの頃から酒の香りの中で育ってきました。そのため、業界や日本酒の固定観念に引き戻されてしまいそうになることもあります。純米じゃなきゃだめなのだとか、添加してはいけないのだとか…。ですが、それらに引っ張られると失敗するのではないかと考えています。当社が製造する熟成古酒には、熟成古酒なりのあり方があるはずですからね。

高橋 ネイガーは秋田の子どもを守るためにしか戦わないヒーローなのですが、金紋さんはそのようにして作られた熟成古酒を秋田発のものとして世界に発信しているんですね。

佐々木 もともとは、「秋田発」のような地元へのこだわりまではなかったんですよ。日本酒の業界にもテリトリーのようなものがある中で、小さな酒蔵としては地元で戦えなかった。当社が生き残っていくために目を向けたのが海外でした。当たり前ですが、パリのミシュラン三ツ星レストランが当社の熟成古酒を扱うのは、耳ではなく舌の評価からです。熟成古酒を通じて、日本酒をもっと世界に認められる酒にしたい。今では、秋田から広く世界に発信していくことの夢を描きながら取り組んでいます。

高橋 海外で得た評価を通じて、改めて秋田の酒蔵であることに目を向けられたんですね。金紋さんが人を楽しませようとしたり、驚かせようとしたりする企みを持たれているところが楽しいです。

取材協力:AXIA(アクシア)
秋田市大町4-4-1
TEL 018-866-8486
営業時間 19:00~翌3:00
日曜定休

制作・記事提供:秋田芸術新聞

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