特集

辺境音楽の逆襲/AKIBI plus 2017

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旧渡邊幸四郎邸(秋田市新屋表町)で128日、「辺境音楽の逆襲~裏テーマとしての秋田」と題するトークとミニライブが開かれた。アートマネジメントができる人材の育成などを目的に、秋田公立美術大学(秋田市新屋大川町)の岩井成昭教授のグループが展開するアートプロジェクト「AKIBI plus(アキビプラス)」の一環。

登壇者は、ロックバンド「halos(ハロス)」のメンバー4人(草階亮一さん、諸越俊玲さん、宮崎悠さん、佐藤和也さん)とレゲエバンド「英心&The Meditationalies(メディテーショナリーズ)」の英心さん。進行は、岩井教授(以下、敬称略)。

岩井「ゲストに招いた両バンドの皆さんが、秋田に対してどのような思いを持って活動しているのか、心の裏側、心の奥底の世界に少しだけ触れる機会にと企画しました。テーマにある『辺境』とは、『中央に対して辺境があるわけですが、辺境から逆にメッセージを送れるのではないか、あるいは、中央を無視して辺境が相互にリンクできるのではないかとの観点から場所を捉えたものです。自虐的に考えたものではありませんが、先ほど少しお話をうかがったところ、両バンドの皆さんは秋田に生まれたことを意外にネガティブに捉えているんですね。『こんなところから逃げたかった』と。私は秋田市に住んで4年になりますが、夢を持って移り住んできました。日々、それを確かめながら暮らしています。ところが、地元の表現者の皆さんに『秋田はどうしようもない場所だ』と言われてしまうと反応しづらい(笑)」

草階「若いころは本当にいやでした。人も環境も、私の周りの小さな世界がいやだったんだと思います。昔から地元で山菜採りに行くことも好きで、私自身は秋田で楽しむ方法を知っていたと思いますが、仲間があまりいなかったので一人(笑)。こんなに楽しいことがあるのに、周りからは秋田には何もないとの愚痴を聞き続ける。そんな環境の中から脱出したかったんだと思います」

諸越「おそらく今日の出演者のうち、私だけが生まれてこの方秋田を出て暮らしたことがないと思います。旅は好きなので全国を回ることはありますが、私にとってはどこに住んでいるかというよりも、仲間がいることの方が重要。地元には友だちもいるし、外に出る理由がなかったですね」

英心「私は三種町でお坊さんをしているのですが、秋田に生まれたこと自体がネガティブだと思っていました。寺の長男として生まれ、跡を継がなければならないプレッシャーの中で過ごしました。生き方を決められてしまうとレールを外れたくなるもので、三種町を出たくて秋田市の高校、東京の大学と進学し、世界を旅して回りました。ブラジルでは1年ほど働きながら暮らしました。『ここではないどこか』で何かを経験したいとの気持ちが強いと、足元が見えづらくなるもので、地元の良さに気付くことができなかったんですね。帰郷して、『ここで暮さなければならないのか』となったときに改めて目を向けると、いいところが見えてきました」

岩井「英心さんの書いた曲『秋田濃厚民族』は、旅行者ではなく、そこに住み着くための応援歌だそうですね」

英心「旅行するのと生活するのとでは土地に対する感覚が違いますよね。住んでみると、旅行では感じられないつらいことやネガティブなことがどうしても見えてきます。しかし、そこから目をそらさないことが生活する上では必要です。だからこそ、当然のことと思ってしまいがちな、歌詞にもある『空気のうまさ』などを、いま一度、実感できたらいいのではと思っています」

岩井「今日のテーマにある『裏テーマとしての秋田』。ハロスの音楽は表向きに秋田を前面に出していませんが、裏にはある。逆に、英心さんたちのバンドは秋田を表に出していますね」

宮崎「ハロスでは秋田を題材にした曲を演奏することはないですが、東京でライブをすると『東京の人には出せないかっこよさがある』と評されることがあります。『かっこよさ』のベースには、秋田での暮らしや環境などがあるのかもしれないですね」

佐藤「私は岩手県出身なのですが、秋田で最初に感じたことは『田舎だな』ということ。駅周辺でも寂しい。ひさしぶりに盛岡に戻ったときには、駅前の人ごみに手が震えたほどでした(笑)。あと、信号の切り替わりも秋田の方が早いし、クルマの運転も荒い人が多いですね。攻撃的なのかも」

岩井「盛岡はまちの風景が頭に入ってきやすいですね。私も最初の頃は、秋田駅からどのように移動していいのか分からず、広がる空間をただ歩き回るしかないような印象でした。両バンドを比較してみると、ハロスの音楽は移ろいゆくように変化する音楽だと思うのですが、一方で、英心さんの音楽は着地していく風景というか、固定された風景を周囲から見ていくような印象を受けます。秋田の人たちの中に、回遊する、周遊する姿勢のようなものがあるのでしょうか」

草階「秋田の人に特に回遊する姿勢があるとは感じませんが、私はライブツアーなどで一ところにはいません。地元には小さなコミュニティーしかないですから、移動して活動するのが普通なんです」

岩井「ハロスの曲は、例えば、クルマに乗ってどんどん移動する風景を捉えているような感覚がありますね。『A・コーラス・サビ』という構成になっている曲もあまりない。言葉や頭の中の意識の流れに寄り添いながら作られているイメージがあります。土地との結び付きなどの関係はありますか?」

草階「そのように評されることが多いですが、自分で意識しているわけではないですね。北東北を見回してみると、青森や岩手の人には民族的な誇りを持つ意識や思想のようなものを感じることがあります。秋田の人はフワっとしていますね。私も含めて」

英心「隣県に比べると、(秋田の人は)プライドが高くないかもしれないです。県外で秋田出身であることを前面に押し出す人は少ないです。東京に行くと秋田弁を直す人が多いですが、津軽の人は直さないし、直りづらいようです。秋田の人は地元を好きな気持ちを持っていますが、積極的には出さないですね」

草階「東京など県外のバンドを秋田に呼ぶと、みんな秋田を好きになってくれるんですよ。観客が温かいそうです。CDもすごくよく売れます(笑)」

英心「秋田のお客さんは、ライブ会場でも真剣な顔で聞いている人が多いので、『楽しんでくれているのだろうか』と、こちらとしては不安になるのですが、こちらから『これをやって』とお願いすると、素直にやってくれる人が多いですね。国内でも南の方へ行くと、何も言わなくとも皆さんは自由に踊りますが、秋田の人は『振り付け』で踊ることが得意なのかもしれません。確かに、演奏後にはCDをよく買ってくれますね」

岩井「表現が感情と直結しない人が多いのかもしれませんね。ところで、草階さんに秋田らしいハロスの楽曲について聞いたとき、『海の匂い』を挙げてくれました。私もネイティブな秋田を感じる曲です」

草階「特に秋田を意識して作ったわけではなく、あえてですが、いわゆるマイナー進行で歌詞も暗い展開の曲ですね。『頭かじられる』との歌詞は、当時、強い言葉を入れることで、周りに振り返ってもらいたいと思っていたからかも」

岩井「新作アルバム『マカロニ』は、昔のイタリア版西部劇のイメージを反映したとのこと。荒涼とした秋田のイメージ?」

草階「今日もその辺りは荒涼としていると思います」

諸越「ハロスでは極めて音楽的に作っているんです。音楽的というのは、音符はこうで、ここのコードはこうで、アンサンブルして…と。あまり何かのイメージを持って曲を作るということはなくて、作っている段階ではマカロニウエスタンのイメージすら持っていないんです。イメージは後付けすることが多いかな。私は、ハロスと英心さんのバンドの両方でドラムを担当していますが、私は音楽に感情を込めることはあまりしないです。感情がたかぶったら演奏自体に反映させるのが私の役割なので」

岩井「一方、英心さんのバンドは、秋田弁の歌詞でできている『Oi Bamba!(オイバンバ)』『過疎地の出来事』など、秋田らしいテイストの曲が多いですね」

英心「私は『表のテーマ』として秋田を捉えています。ここに住んで、坊さんをやっている。音楽をやる上でのアイデンティティーです。近年は、法事に行くと、おばあさん一人の家も増えてきましたが、『Oi Bamba!』は音楽的にというか、スペイン語のように聞こえる秋田弁を並べた曲です。『過疎地の出来事』は、松任谷由美さんの曲『避暑地の出来事』のダジャレのようなタイトルですが、人が減った過疎地では、自分が遊ぶ場所が逆に増えることになるのではないかと。ネガティブなことをポジティブに捉え直すことを歌にしています。仏の言葉を借りると『智慧(ちえ)』」

岩井「『マカロニ』にはラテン系の印象があって、英心さんも曲にスペイン語をかぶせています。享楽的との意味からか、秋田の人はラテン系との言説を聞きます。しかし、ラテンの人たちはコミュニケーション力が高いですが、秋田の人は一般的に口下手。コミュニケーションが何段階にもなっているように感じます」

諸越「秋田人がラテンというのは、そんなに思っていないですね。仲良くなるまでには、確かに時間がかかるかもしれません。一緒に飲みに行くといいですね。私もそうです」

英心「私も秋田の人がラテンと思ったことはないですね。人見知りの人も多いですし。ラテンは感情的ですよね。感情の起伏に激しさがあります。楽しむべきときは楽しみ、悲しむべきときは悲しむ。根底には経済的貧しさや治安の悪さなどの不遇があって、その分、祭りの盛り上がりがあります」

岩井「表現するとき、発想の段階では自由にできると思いますが、レコーディングしてアルバムを作ったり、プロモーションしたりする段階で、秋田という土地の条件については?」

草階「私は『えふりこき(秋田弁で格好つけたがりの意)』というか、写真やウェブなどパッケージの細かなところまで形にこだわります。そこをちゃんとやらないと、地元の人に『秋田のもの』だと思われてしまうからです。私も含めて秋田の人は、ローカルなものとしての『秋田』に対してネガティブに捉えることが多いようです。私たちは、秋田をテーマにしているというよりは、秋田の人たちに対して何かを向けているのかもしれません」

英心「私は逆にDIYにこだわっていて、なるべくお金をかけず、録音も寺で行っています。あるものを使う『知足』の考え方です。曲を作る段階ではコンセプトを大切にしながら、ここでしかできない録り方や売り方をブランドにしていければと思っています。『ローカルだからクオリティーが低いのでは』との観客の反応を打破したい気持ちでやっています。秋田を愛していることを前面に出しながら、いい気持ちで見てもらいたい。そして、愛されたい気持ちでいっぱいです(笑)」

岩井「美術作品も同じです。ローカルの枠組みの中だけでだけで通用するようなもので終えてしまうことは、一番避けなければならないです。当大学は5年前から4年制になって、海外からも含めた新しい教諭(美術家)もたくさん秋田に入ってきました。それらの作品を秋田で流し込んだとき、秋田には受け止める器が少ないんですね。『こういうクオリティーで共有したい』と思っても、ネガティブな条件が多くて、やりたいことができない。才能は必ず育っていくと思いますが、公にしていくインフラがないですね」

草階「私は10代の頃から県外でライブを行いました。観客は入りませんでしたが、仙台でライブをやること自体が重要だったのです。さまざまなコミュニティーに出掛けて、いろんなジャンルのクリエーターと知り合っていくうち、やり方がだんだん分かっていきました。英心さんはお金をかけないそうですが、最後の段のクオリティーまでしっかりしていますね。一方で、仕事で関わるディレクターが、必要なことを知らないままディレクションすることがあります。お互い仕事の底上げをしていく意味で、しっかり積み重ねていきたいんだけど、『知らない』で済ませてしまうことがあるのは残念」

岩井「美術や文化全体がそういう感じがしますね。切磋琢磨して(クオリティーを)上げていくのではなく、現状を維持してしまう。変えていかなければならないところかもしれません。当大学の学生の特徴として、自分の地元に仕事を固定させたがる学生が多いのです。地元を愛することはいいことですが、卒業後、そのまま地元へ帰ってしまい、外の世界を見て外のクオリティーを知ったり、客観的な視点を持ったりする段階を回避するのは惜しまれるところです。最後に今日の演奏曲目について教えてください」

英心「生活は楽しいことばかりじゃないけど、しっかりと種をまいて生きていこうとの思いを込め、勝手に秋田定住PRソングとして作った『秋田濃厚民族』や『過疎地の出来事』、私の妻がクリスチャンの家系なので、神も仏も仲良くとの思いを込めた『UNITY(ユニティ)』などを聞いてもらいます」

草階「アンダルシア進行というマイナー進行の『カタバミだらけ』。カタバミは、すごく根が深くて敬遠される雑草ですが、小さな黄色い花を咲かせます。皆さんの心のどこかにあるフワっと飛んでいくような部分に重ねて、どこかへ飛んでいってもらえれば」

次回の「AKIBI plus」は、「辺境芸術編集会議 THE FINAL」と銘打ち、県内4拠点で展開した同事業の報告会を開く。

【日時】2月4日(日)14:30~17:00
【会場】秋田公立美術大学 大学院棟1F(秋田市新屋大川町12-3) 【登壇】蛭間友里恵さん(秋田市)、千葉尚志さん(同)、猿田真さん(男鹿市)、柳澤龍さん(五城目町)、永沢碧衣さん(横手市)、進行:岩井成昭教授(プロジェクト統括)
【入場】無料(予約不要)

AKIBIplus