特集

「ミラクルガール」~医療系セラピスト・大塚弓子さん

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■がん闘病記?ビジネス書?~「ミラクルガール」

-本は企業の経営者にも評判がいいようですね

秋田経済新聞大塚「『従業員に読ませたい』と10冊ほどまとめて買ってくれたり、『自分におきゅうを据えるためにいい本』とブログで紹介してくれた地元秋田の社長、ご厚意で本のPR活動に協力してくれる社長もいます。皆さんに応援していただいて、本当に感謝しています」

-「闘病記」というより、「自己啓発書・ビジネス書」のようにも読めますね

大塚「そうかもしれませんね(笑)。普通の闘病記ではないかも…。わたしは『リンパ浮腫セラピスト』として開業もしているのですが、自分をいかに売り込んで、仕事上のポジションを獲得していくか…特に意識して書いたわけではないのですが、その過程も書いています」

-「ミラクルガール」という書名は?

大塚「わたしが付けました。採用になるとは思わなかったけど、出版社の社長に『これでいこう』と快諾いただいて決まりました。知人には『ミラクルアラサーの間違いでは?』と、からかわれますよ。今、31歳ですから(笑)」

■闘病しながら資格取得に挑戦~道は自分で切り開く

-「リンパ浮腫セラピスト」について教えてください

秋田経済新聞大塚「わたし自身も発症した『リンパ浮腫』は、がん治療などの後に発症することが多い腕や足などがむくんでしまう病気です。国内に12~14万人もの患者がいると推定されていますが、あまり知られていないのが現状。症状を緩和するために、医療用マッサージなどのケアを行うのが『リンパ浮腫セラピスト』です。わたしは、現在、宮城県石巻市と秋田市の病院に勤務する傍ら、個人で開業もしています」

-資格の取得までには苦労も多かったようですね

大塚「高校卒業後、アルバイトで貯めた資金をもとに『鍼・灸・マッサージ指圧師』を目指して仙台の専門学校を受験しました。あきらめたくない思いで何度も挑戦して、5回目で合格することができました。卒業時、資格を取得しましたが、同時にがんも再発してしまい…。でも、これから医療に携わる者として、患者の立場から医療の現場を見つめ直すことができるチャンスだと思いながら手術を受けました。その後、『リンパ浮腫セラピスト』の資格にも挑戦することを決めました」

-体調が思わしくない中で、資格試験に挑戦する姿に驚きました

大塚「試験当日、具合が悪過ぎて思考回路が停止したような状態でした。本当に苦しくて、今までで一番大変だったときです。その分、2007年3月に『日本医療リンパドレナージ協会』認定上級セラピストの資格を取得できたときは、うれしかった。『ついに上り詰めたぞ!』と(笑)」

-現在、自身でも開業されてるとのことですが

大塚「資格を取っても、それだけでは仕事にはならず、営業してもなかなか相手にしてもらえないこともありました。それでも、『ダメもとでいい』と思って行動していると、声を掛けてくれる人が現れるもの。石巻の病院への勤務が決まったのもそんな出会いがきっかけでした。『これぐらい頑張るとこれぐらいの味方が現れる』という体験もあったことから、苦しいときでも自分が一生懸命やっていたら、誰かが必ず見ていてくれていると感じています。だから、わたしは絶対に大丈夫です。道は自分で切り開きながら、前に進んでいくしかありません」

-大塚さんの前向きな心構えを支えているものは何ですか?

大塚「困難を感じたとき、事業で成功された人が書いたビジネス書を読むようにしています。ビジネス書は、医療関係の本と同じぐらいよく読みますよ。特に著名な経営者が書かれた本を読んでいると、自分も道が開けていくような気持ちになります。何があっても前に突き進むこと、何があっても自分を信じることで、どんな困難も乗り越えていく経営者の姿から勇気をもらっています。闘病などで自分が飲んできたのは『煮え湯』かもしれないけど、それらの経営者が飲まれているのは、きっと『煮え油』なんだと(笑)」

-すごいたとえですね(笑)。大塚さんはまだぬるいと?

大塚「そうですね(笑)。社員の生活も負いながら道を切り開いていかなければならない会社の経営者に比べたら、わたしは自分が病気になっただけです。自分ひとりの道を切り開いていけばいいだけですから」

■コンセプトは「作者が亡くならない闘病記」

-出版を考えたのはいつごろですか?

秋田経済新聞大塚「『今まで生きてきた記録をまとめよう』というのが昨年の目標でした。もちろん、実際に出版できるかどうかわかりませんでしたが、気持ちだけは本気で出版をするつもりで書き始めました。ちょうどそのころ、がんが再々発した疑いがある状況で…幸い再発はなかったのですが、結局、新型インフルエンザの予防接種を受けたために具合を悪くしてしまいました(笑)。やはり、人間はいつどうなるかわからないなあという思いの中で、形になるものを残したかったのです」

-なるほど

大塚「これまでにもがんの闘病記はいくつも出版されていて、中には映画化されたり、テレビドラマになったりした作品もあります。近年では、若年性乳がんと闘う女性の原作で映画化された作品もありましたが、昨年、作者が亡くなってしまいました。仕事柄、がん患者さんと日常的に接しているとわかるのですが、闘病記などの作者が亡くなると、患者さんはどうしても動揺してしまいます。そうした中、患者さんに『作者が亡くならない闘病記はないの?』と聞かれたことがあって、『じゃあ、わたしが書いてみようかな』という会話を交わしたこともありました。原稿は1年かけて少しずつ書いて、昨年11月にいったん書き終えました」

-原稿で特に気を付けたことはありますか?

大塚「エッセー調に、自分の言葉でわかりやすく書くこと。わたしが独身だったから書くことができたということもあるかもしれません。もし、家庭を持っていたら、家族への配慮も必要だったかもしれませんね」

-ところで、出版の経緯は?

大塚「原稿を書き終えてすぐに地元の出版社に電話で突撃しました(笑)。社長に電話に出ていただくことができたので、『3分だけ時間を下さい』とお願いして内容をお話ししましたが…『書店では闘病記が山積みで、出版しても売れるかわからない。でも、原稿だけは読んであげる』と言ってもらえました。早速、原稿を送ったところ、数日後に『これはものになるから出版しよう』との連絡。うれしかった。でも、その後の再構成や書き直しが大変で、大みそかも原稿を書きながら年を越しました。出版に当たっては、売名行為と思われるのでは…との不安もありましたが、自分をさらけ出すことで表に出る勇気を持ちました」

-具体的にこの本で何を伝えたいですか?

秋田経済新聞大塚「わたし自身も闘病しながら医療に携わっていることから、『リンパ浮腫』への理解を広めたい思いも強いです。今では、がんを公表したり、患者同士で情報交換したりすることは、かつてに比べると随分オープンになりました。それでも、『がん患者は一般の人とは違う』という目で見られてしまうことも少なくないようです。『がんであることを身近な友人には話すけど、会社では秘密にしている』という患者さんもいます。患者に対する社会のイメージを固定化されないようにしたいとの思いから、自分の失恋の話でも何でも書いちゃえ(笑)と、ありのままを書きました。がん患者だからといって特別なことはないことを知ってもらいたい」

-本の内容は明るいですね。ユーモアもあります

大塚「がんとは一生付き合うしかないです。だとしたら、がんを嫌いとばかり言っているわけにもいかない。わたしががんを『嫌い嫌い』と言ってたら、がんもわたしを嫌うのでは?わたしはがんに『大人しくしていてね』と話しかけるんですよ。変な話ですが、これまでの生活の中で悟りを開いたというか(笑)」

-読者には、どのように読んでもらいたいですか?

大塚「『頑張る子のエッセー』みたいな内容かと思いますが、何よりこの本が『リンパ浮腫』への理解の一助になればと思います。あとは…わたしは病気が治ることが奇跡なのではなく、『朝に目が覚めたこと』とか『おにぎりがおしかったこと』とか、毎日の身近な小さな出来事のすべてが奇跡なんだと思っています。闘病中の人もそうでない人も、日常を普通に暮らせることの大きさや日々の小さな奇跡に気が付くきっかけにしてもらえればうれしいです」

-ありがとうございました。

秋田経済新聞

【あとがき】

「道は自分で切り開く」と人生への前向きなチャレンジを続ける大塚さん。「ビジネス書の気に入った言葉やフレーズを紙片に書き出して何度も読み返すことで困難を乗り切る」と話す。大塚さんのさらなる飛躍に期待したい。

秋田の医療系セラピスト、「明るいがん闘病記」出版-経営者にも好評(秋田経済新聞) 日本医療リンパドレナージ協会 無明舎出版

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