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極超妄想イノべイター~武田昌大さん #02/すきかちっ Vol.5

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記事提供:すきかちっ

極超(ハイパー)妄想イノベーター・武田昌大さんが生み出すアイデアの数々はどうやって生まれ、そしてどうやって形になっていくのだろうか?今回の「すきかちっ」では武田さんが2010年から手がける『トラ男』プロジェクトについて話を聞く。断言しよう。この記事を読み終わる頃には、あなたはきっと炊きたてのご飯が食べたくなる。

とにかくインプット

Matirog「シェアビレッジの企画は、目からうろこでした!発想力が素晴らしいですが、日常的に企画脳、アイデア脳なんですか?」

武田「テレビや雑誌を見ているときに、面白い!と感じたときは、何が面白いのかを抽出し、記録しています。また、いろんな地域へ行って感動することがあったら、その内容を覚えておくようにする。とにかくたくさんインプットして、自分の地域でどのように生かせるかを常に考えています」

Matirog「リラックスしたお酒の席でも考えることはありますか?」

武田「そうですね。東京でお店を持っていますが、そのお店のカウンターのお客さんと飲みながら企画会議をすることもありますよ(笑)」

Matirog「僕はいいアイデアを思いついても、うっかり忘れてしまうことがありますが、きちんとメモを取っているんですね」

武田「僕はいいアイデアを思いつくと、メモアプリ『evernote』を活用しています。スマホでもタブレットでも使えるので便利ですよ」

Matirog「翌日そのメモを見て、これなんだろう…と思うことはありませんか?」

武田「なんだこれ?と思うものは、いいアイディアじゃないので排除です(笑)。基本的には必ずメモを取りますが、メモを取らなくても覚えているネーミングは、誰でも覚えられるもののはずです。逆に忘れてしまうものは、みんなにも覚えられないものだと思っています。例えば、シェアビレッジの村民制度で付けたブロンズ会員の呼び名『ブロンソン』って、忘れませんよね?強烈なインパクトのある言葉は、必ず記憶に残ります」

Matirog「ブレーンストーミングでは、集団でお互いに意見を出し合い、たくさんのアイデアが生み出されますが、これから起業したいと考える若い世代に対して、ブレインストーミング技術を磨き合える場が増えるといいですよね。実際にブレーンストーミングを体験するセミナーがあれば、アイデアを生み出す方法も学ぶことができて、皆の企画力も上がるんじゃないかなと思います」

トラ男

Matirog「秋田米ブランド『トラ男米』の生みの親でもある武田さんですが、『トラ男』についてお話をいただけますか?新聞でも拝見しますが、インパクトのあるネーミングですよね」

武田「『トラクターに乗る男前』の略で『トラ男』。トラ男米の生産者を『トラ男』と呼んでいます。秋田県は米どころですが、最近は農協による一括管理の影響で、作り手の存在が分かりにくくなってしまっているんですね。そこで、作り手を『見える化』し、ブランド価値を高めて、消費者に美味しいお米を提供しています。そもそものスタートは今から10年ほど前の2008年です。当時は今ほどネット環境も整っておらず、『見える化』ができていない時代だったため、まずは作り手の『見える化』がアイデアとして浮かびました。秋田県の農業は古い体制だったので、ネットやSNSをうまく利用したら『作り手の顔が見える流通』ができるのではないかと思いました」

Matirog「古い体制とは、具体的にどのようなやり方でしたか?」

武田「パソコンを持っていない農家さんも多く、インターネットでお米を売る方法を知らない人がほとんどでした。そのため、農協へ出荷したり、身近な直売所などにお米を置かせてもらったりというのが主な販売方法でした。ですが、インターネットを利用すれば、消費者へ直接販売もできます。そしてなによりも、秋田県だけにとどまらず、日本全国の多くの人に秋田のお米を、そして作り手を知ってもらえます」

Matirog「どのような流れで、トラ男のプロジェクトを立ち上げることになったんですか?」

武田「東京で働いている時、秋田県に帰省するたびに、衰退しているように感じ、毎回残念に思っていました。秋田県を何とかしたい、自分ができることは何か…と考えたときに、得意だったデジタル分野が生かせるんじゃないかと思いました。秋田のいいところ、強みは、やはり農業で、食料自給率は日本で第2位です。『秋田こまち』という美味しいお米がありますが、年々農家さんの高齢化が進んだり、米価が過去最低価格になったりしたこともあって、農業を辞めてしまう方も増えています。若手の農家が、もっと新しいことにチャレンジすべきだと感じました。僕は実家が農家ではなかったので、農業のことは何も知りません。そのため、まずは農業を知ろうと、東京で月曜~金曜まで働き、土曜・日曜は秋田県の農家さんを巡って、農業について勉強しました」

Matirog「飛び込みで声を掛けていたんですか?」

武田「はい、アポなしで訪問して『農業について教えてください』と回りました。ネット通販をしたいというよりも、まずは秋田の農業の現状を知らなければ何もできないと思ったからです。いろいろな農家さんと話をして、土や作物に触れていくうちに、農業は面白いと感じ始めましたね。僕のことを面白いやつだと思ってくれた農家さんが、隣町の農家さんを紹介してくれるなどして、どんどんつながっていった結果、18日間かけて 最終的に100人の農家さんから話を聞くことができました」

Matirog「100人の農家さんというのは、膨大なデータですよね。どのような年代の方が多かったのですか?」

武田「20~30代の農家さんの話を聞こうと思っていましたが、実際はほとんどが60歳以上でした」

Matirog「たくさんの農家さんの話を聞いて、学んだことは何ですか?」

武田「恥ずかしながら、お米が何月に収穫できるかも知らない農業ど素人でした。農家さんの給料がいつ入るかももちろんわかりません。しかし、時に泥まみれになりながら手伝って回るうちに、作り方の違いや地域によって採れるお米の違いを知ることができました。そうやってたくさんの農家さんと話していると、自分もまるで農家であるかのような錯覚を覚えました。そんなころに、各農家さんが丹精を込めて作ったお米を、混ぜて一つにして販売しているという実態を知って、どうして混ぜるんだ!と怒りを感じたんです。なぜ混ぜて販売する流通しかないのかと疑問を抱きました。そこで初めて、直接流通を作りたいと思ったのが、トラ男プロジェクトを始めるきっかけです」

Matirog「お米の農家さんの思いと同調して、怒りを抱くところにまで達して生まれたのが、トラ男プロジェクトのアイディアだったんですね」

武田「当時は本当に怒ってましたね(笑)。直接販売には、インターネットを利用した方がいいと思い、お客さんと直接コミュニケーションを取るためにTwitterを利用したり、Facebookは当時あまり利用されていなかったので、ブログで情報を配信したりしました。販売方法が決まったら、お米の見せ方を考えます。農業は、6K(きつい・汚い・格好悪い・くさい・稼げない・結婚できない)と言われ、あまりイメージはよくありませんでした」

Matirog「全部嫌ですね…」

武田「しかし、僕は実際農家さんと触れて農業は格好いいと思ったんですよね。天候と日々戦い、愛情をこめて作物を育て、力仕事をしてトラクターを操る農家こそ男だ!と感じました。しかし、農業の格好良さを伝えるには、そのまま『農業系男子』で売り出しても伝わりません。『農業』のワードを入れずにポジティブに農業を表現する言葉を考えました。頭の左ページに『カマ』や『クワ』などの農業系のワードを想像して、右のページには『王子』や『ボーイ』など男系のワードを並べて、ひたすら掛け合わせてみたんです。そして最終的にたどり着いたのが、『トラクター』と『男前』で『トラ男』でした」

Matirog「そこでようやく『トラクターに乗る男前』にたどり着いたんですね」

武田「『トラ男』になる前に一つボツになった名前があります」

Matirog「聞きたいです!」

武田「『たんボーイ』です(笑)。僅差で『トラ男』に決定しました。『男』という漢字をどうしても入れたかったんですよ。『男』という漢字は『田んぼ』に『力』と書きますからね。本物の男こそ農家だと思ったんです。あと『トラ男』って、子どもでも言いやすいんですよね。名前が『トラ男』に決定したので、農家とチームを組んでウェブサイトを作り、2010年10月から売り出しました」

売るだけで終わらせない販売術

Matirog「ブランド化にも成功して、今は全国にお客さんがいますよね。8年経って、『トラ男米』ファンも随分増えたのではないですか?」

武田「はい、おかげさまでファンが増えたこともあり、今は毎月定期的にトラ男米が届く『トラ男ファミリー』というサービスも実施しています。季節ごとにトラ男米と一緒に召し上がれるようにおいしいおかずもセットで届けています。今月(取材時は6月)であれば、ジュンサイとトラ男米ですよ」

Matirog「秋田県でしか食べられないような食材とおいしいお米が、このサービスのおかげで全国でいただけるんですね!お米を作っているトラ男のみなさんも大喜びじゃないですか?」

武田「僕たちがやっているトラ男米の流通はまだ少ないので、稼ぎとしては足りていませんが、これからもっと広げていきたいですね。より多くのみなさんにトラ男米を知ってもらうために、昨年10月に東京の日本橋小伝馬町に、おむすびスタンド『ANDON』というお店をオープンしました」

Matirog「日本橋という場所を選んだのには理由があるんですか?」

武田「やはり、場所は大事です。僕がやろうとしたおむすび屋さんは、例えば渋谷では何か違うなと感じました。旅のスタート地点、江戸と地方が繋がる起点を考えたときに、日本橋だなと思いました」

Matirog「お米をいかに嗜好品にするか、いかに付加価値をつけて商品価値をあげていくかが課題ですね」

武田「僕が東京でお米を販売していて気が付いたことは、せっかくおいしいお米を買っても、おいしい炊き方を知らない人が多いことです。そのため、今では、買ったお米がおいしく炊かれて、お客さんの口に入るまでをプロデュースしています」

Matirog「おいしいお米を売るところで終わらせないんですね」

武田「従来、お米の販売は売って終わりで、その後のことはお客さん任せですよね。そうではなく、きちんとおいしく炊ける方法を教えたり、おいしい味を体感してもらったりする場が必要だと気が付きました」

Matirog「そこまでしてくれると、みんな大ファンになっちゃいますね」

武田「お店では、食べてもらうのはもちろんですが、お米マイスターを呼んでおいしい炊き方講座を開催し、実際に体験してもらっています」

Matirog「お米マイスターというのは、どのような方ですか?」

武田「お米マイスターは、お米に関する幅広い知識を持った専門家です。『ANDON』は4階建てで、4階がスタッフルーム、3階がイベントスペース、2階が本屋さん、1階がカウンターバーという構成になっています。おいしい炊き方講座では、まず、3階のイベントスペースで、僕が秋田のお米と農業の話をして、2階の本屋でお米マイスターが炊飯のワークショップを開催し、そこで炊いたお米を1階のカウンターバーに運んで、みんなでおむすびを作って食べます。参加者は、お米に関する知識を得て、炊き方を体験し、食すことができるわけですね。インプットからアウトプットまでを提供しています」

Matirog「ビルを上から下に降りて行くと、イベントのストーリーが完成するんですね。それまでお米の炊き方がよく分からなかった人たちが参加すると思われますが、これこそがおいしいお米だ!と実感することもできますね。地元が米どころの方も参加されるんじゃないですか?」

武田「そうですね、たくさん参加してくださいます」

仮説から生まれたおむすび屋「ANDON」の構成

Matirog「2階が本屋さんとのことですが、農業関係の本を置いているんですか?」

「いいえ、『食』と『江戸』にまつわる本を置いています」

Matirog「日本橋という立地を選んだことでも、必然性が生まれていますね」

武田「本屋兼イートスペース、要はブックカフェです。2階を本屋にしたのは、おむすび屋さんだけだった場合、おむすびを食べる目的でしかお客さんは来ません。本屋があれば、おなかが空いていなくても行きますよね。近所の方々がふらっと立ち寄れる空間をイメージしたときに、『食』と一緒に『本』があれば人の交流も生まれると感じたんです。イベントスペースも交流の場ですが、本屋さんも交流の場だと僕は思っています。多様なコミュニケーションの場を作るために、階ごとに機能を変えました」

武田「まずは、東京に住んでいる人たちは、実は東京のことを楽しめていないんじゃないかという仮説を立てました。東京に住んでいるのに、東京本来の文化である、歌舞伎や落語、相撲に触れていない人はたくさんいます。もっと東京の文化を知って楽しんでもらえる場として、『江戸』を学べる本棚を設置しました」

Matirog「仮説を立てて、それに向かってプランを練ることは、これから何かを始めようとしている人にとって大切なことでもあります。顧客の要望に合わせるのではなく、仮説を立てて向かうべき方向をイメージするんですね」

武田「僕がコンセプトメイキングする際には、最初に社会課題を見つけ、その課題を自分事にもっていく流れにしています。社会課題があった時に、なぜこうなっているのかという仮説を立てます。その仮説をいろいろな人に向けて発信することで、発見があります。発見と同時に体感します。体感すると、自分事になっていきます。社会課題ばかり見ていては、解決はしません。出会った課題に対して仮説を立て、実験し、リアルに体験してみると、社会課題は自分自身の課題になります。自分の課題になると、情熱もわき、解決の糸口も見えてきます」

Matirog「課題が自分の体の細胞一つ一つにまで落とし込まれないと、情熱もわきませんよね。情熱がなければ、周囲の人も動きません」

武田「課題解決をするには、まずは自分がその対象のことを好きで、それには情熱を注げるほどの価値がある!と思うことが大切です。『価値・課題・解決』だと僕は考えています。社会的な課題はみんな同じなので、課題だけ見るのではなく、課題の中から自分の好きなポイントを見つけ、悩むことで、オリジナリティーあふれる解決策が見つかるはずです」

Matirog「自分事だと感じる課題に対して、同じように自分事だと感じる人が集まると、より早く課題解決につながりますね。SNSの普及で容易に人とつながることができる時代なので、価値観を共有しようと思えば、70億人が範疇に入ります。社会的な課題に迎合せず、自分が情熱を注げることをテーマに旗を揚げることで、人が集まるんですね」

武田「自分はこうだ!と思えるポイントをいかに自分で持つことができるかが大切ですね。地域の課題を解決して、起業家になりたい方がたくさんいますが、その課題を見つめる前に、その地域に情熱を注げるほど価値あるものを見つけることが重要です。価値あるものを見つけるには、まずは行動して課題を抱えた人に多く会い、発見し、体感することです。情熱があれば自然と人は集まり、課題解決につながっていくはずです」

★次回、武田昌大さん「#03」は、8月6日配信予定です。 お楽しみに!

すきかちっ(Phiomn)

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