特集

「辺境芸術」編集会議(1/2)/AKIBI plus 2017

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 秋田公立美術大学(秋田市新屋大川町)教授で美術家の岩井成昭さんのグループが、2015年から県内4エリアを拠点に展開するアートプロジェクト「AKIBI plus(アキビプラス)」。4月に開学した同大学大学院棟で6月16日、本年度のキックオフを兼ねたトークイベント「アキビトーク#1」が開かれた。登壇者は以下の通り。

 「シェアビレッジ町村」管理者で五城目町在住の柳澤龍さん、絵画作家で横手市在住の永沢碧衣さん、「里山のカフェににぎ」を経営する男鹿市在住の猿田真さん、秋田経済新聞の千葉尚志編集長。進行は、岩井教授が務めた(以下、敬称略)。

アキビプラストーク#1 第1部「辺境芸術編集会議キックオフ!」

アキビプラストーク#1 秋田経済新聞岩井「文化庁の『大学を活用した文化芸術推進事業』として、アートマネジメントができる人材の育成などを目的に、県内各地と連携して行ってきた当プロジェクトですが、おかげさまで3年目を迎えることができました。

 秋田には、アートマネジメントのできる人材が必要なのではとの発想から始めたプロジェクトです。本学は、制作者やデザイナーなどアーティストの輩出へ向けて教育活動を行っていますが、作り出されたさまざまなアートを一般の人たちに翻訳して伝えていかなければなりません。アーティストの考え方や最先端のアートの考え方と、一般の人を結び付けていく役割を担う人材が必要です。

 初年度、そのような人材が不足していると考え、どのような可能性があるのかについてリサーチを行いました。全国でアートマネジメントがどのように行われて展開されているのかについて、第一人者を招いた勉強会などを開きました。しかし、入念にリサーチを行った結果、アートマネジャーの種のようなものが芽吹いていて、既に動き始めていることに気が付きました。これを受けて2016年、秋田・角館・五城目・男鹿の4拠点を選出し、元々行われていた文化活動を当プロジェクトでサポートする、あるいは、コラボする展開につなげました。当大学の教員が各拠点に関わったり、アイデアを育てたりして、イベントや展覧会などを展開しました。

 3年目となる今年は、昨年の形を踏襲しながら、新たに横手の動きをフィーチャーします。横手の事業のリーダーは本学の卒業生です。このように活躍する人材が出てくることは、素晴らしいことと思います」

-以下、各拠点のリーダーがプラン発表と抱負を披露した(要約)

今と昔を繋(つな)ぐアート/五城目町

柳澤龍、秋田経済新聞柳澤龍「五城目町にある築135年の茅葺(かやぶき)屋根の古民家をベースに『村』を作るプロジェクト『シェアビレッジ町村』に携わっています。3年ほど前、取り壊されるしかない古民家に出会ったのがきっかけです。ところで、茅葺を直すのにいくら必要だと思いますか?1,000万円です。この古民家は10年ほど前、大家さんが1度は直したのですが、その後は放置されてボロボロになっていたものです。私は縁があって、五城目町の『地域おこし協力隊』として東京から移住したのですが、これを、なんとか次の世代に残せないかと考えました。そこで始めたのが、客ではなく、年貢を払ってもらう『村民』を募集することで古民家を維持する当プロジェクトです。『村民』に奉仕してもらうことで維持することを考えました。現在、五城目町に作ったギャラリーでは、同大学の卒業生もスタッフとして働いています。

秋田経済新聞 このプロジェクト(AKIBI plus)に参加するにあたって、3年前、『まずは地域に入ってみたい』との要望を受け、参加者が町内の観光名所などを回るバスツアーや座談会を開きました。私たちがテーマにしていることは、『地域に入るとはどういうことか』ということ。アートプロジェクトでは、地域に深く入っていくことだと言われるが、深く入るとは何なのか。町内でプロジェクトを立ち上げたり、町民と仲良くなったりすることなどの意味がありますが、これをどう捉えるべきなのかを同大学の先生たちと考えました。

 2年目、(国道沿いなどで営業する)露天アイス販売の営業の仕組みを応用したフィールドワークを行いました。町内の拠点に学生2人組を降ろして、散策してもらおうというもの。クマも出る地域なので怖かったかもしれません(笑)。学生が町内の家のドアを叩いて、町人に声を掛けて回ります。(会話を)拒まれて傷ついたり、逆にデートに誘われたりする学生のほか、町民が昼食を分けてくれて、一緒に食べた学生もいました。多くの人をたずねて、その人たちの裏側にあるストーリー、どのような人生を過ごしてきたのかを見てきました。

 参加者が、これらの体験で得た気付きをまとめた言葉や写真を付箋2000枚に印刷して、町内の住居をリノベーションしたギャラリーの壁一面に貼り出す展示会を開きました。芸術家のようにとがった目で、まちの魅力を外から見つめました。アートディレクターを招へいしてトークセッションも行いました。

 ここまでのフェーズは『見つける』。まちに何があるのか、可能性ある芸術は何か…。芸術は大都市からくるだけのものではないはずです。普通の生活の中にあって、どうしても表現してしまうもの。例えば、スニーカーに『コケダマ』を作っている人がいたり、90代のおばあさんが書き続けた日記帳があったり。芸術の根幹は、まちの中にあります。そして、彼らが過ごしてきた体験の中で、どうしても作ってしまうものを体験していく。地域に深く入るということは、人の体験の中でどうしても作ってしまうものや、まちの中にあるものを見つけていくということ。辺境からできる芸術の一つなのではないかと考えています。

 そして、この先にあるのが、『揺さぶる』フェーズだと考えています。町内に小豆の粉と砂糖を練り固めた焼き菓子『モロコシ』を作る菓子店があります。50年以上営業してきたのですが、7月に閉店予定です。長く続けさせようとか、儲けさせようという魂胆はありません。なぜ50年も続けられたのか、当町の人がどういう思いをもって、何を大切にしてきたのか。営みの裏側にあるものを見つめ、何かを加えることで、私たちなりの価値観を見つけていきたい、皆さんと一緒に作っていきたいと考えています」

エリアブリュワー「地域醸造家」の育成/横手市

永沢碧衣、秋田経済新聞永沢碧衣「当プロジェクトには、これまでの2年で男鹿と五城目の事業に参加しました。私の地元である横手でもやりたいとの思いがあったところ、今回、携われることになってうれしいです。皆さんの横手のイメージはどのようなものでしょう?横手は、奥羽山脈のふもとにある盆地です。鳥海山も見られる開けた盆地。自然や動物との交流が当たり前の地域です。(永沢さんが撮影したクマの写真を示しながら)普通にクマにも会えます。東北でも屈指の暑くて寒い地域。『かまくら』という豪雪地帯ならではの文化も有名です。私は旧山内村出身ですが、8市町村が2005年に合併して大きな市になりました。

 当プロジェクトでは、十文字町出身の農民で芸術家の皆川嘉左エ門さんが取り上げられたこともあります。私も作家として活動していますが、横手の特異な自然環境や文化など、普段は交わらないものが交わる空間から影響を受けることもあります。

アキビプラス、秋田経済新聞 横手市では、味噌や麹(こうじ)などの『発酵』文化なども取り上げられることが多くなってきました。近年、市内の旧増田町は『蔵の町』としてPRされるようになってきました。そこで、半世紀ほど放置されていた茶屋の蔵をクラウドファンディングでリノベーションした、県内では初めてのゲストハウス(宿泊施設)を地元の女性が立ち上げました。『発酵バル』も備えています。スタッフがいつの間にかいたり、いなくなっていたりする面白い運営スタイルです。

 横手(の事業)は、『エリアブリュワー 地域醸造家の育成』というタイトルを付けました。『地域醸造家』というワードは、ワインなどの液体を作る醸造の意味ではなく、モノを醸していく人や地域をかき回す人という意味です。蔵や発酵、食材など、異種多様な交流を地域因子や地域資源として、そこに人が関わることで、リンゴや米などがパイや日本酒など別の姿に変わるように、新たなモノやコトづくりができないかにチャレンジしたいと考えています。『地域醸造家』と考えられる人をゲストに招き、発酵とは何かを考えるシンポジウムや、地域に実際に足を運ぶフィールドワーク、制作、展示などを行う予定です。

 横手駅の近くに市の文化施設がありますが、周辺を歩いている人はほどんどいないのです。観光名所が取り上げられ、観光地化される場所がある一方、中心市街地の空洞化などは地域が抱える課題です。いつの間にか営業を終えてしまった商業施設もあります。

 私も不慣れで、まだまだ未開拓ですが、地域を見つめ、知るところから始め、地域をどう変容させられるのかを考え、地域に変革をもたらすものと人を生み出しながら、手足を使った表現活動につなげられればと思います」

ショートレジデンスプログラム「神々と生きる嶋を探る」/男鹿市

猿田真、秋田経済新聞猿田真「私は、男鹿半島の北部で、『里山のカフェににぎ』を経営して5年目になります。カフェでは、県内の作家の作品を使いますが、男鹿には工芸品が少ないという話題になることがあります。地元にもあれば、カフェで使ったり、販売したりして紹介もできるのにと残念に思っていました。そんな折、『もうちょっと間口を広げてみては』と同大学の先生からアドバイスを受け、このプロジェクトには2年前から関わっています。

秋田経済新聞 男鹿は、『なまはげ』と『ハタハタ』が有名ですが、それ以外はあまり知られていない。そこで、男鹿とはどういう地域かについて改めて考えてみると、昔から『信仰に厚い地域』だということに気付かされました。人口減少や高齢化、空き家が増えていることなどの課題があったことから、空き家を活用して工芸家や芸術家が滞在制作できないかと考え、まずは、『空き家ツアー』を企画しました。

 男鹿の人は、芸術に対する関心がほかの地域より低いような気がします。農業・漁業・林業…過酷な作業を伴い命がけで働いているから、それどころではないのです。それでも、60ほどある集落ごとの『なまはげ』(のデザイン)は異なります。『なまはげ館』に行ったことがある人はいますか?色々な種類の面がありますよね。これらは『アートやろうぜ』と作ったものではありません。地域の信仰として、地域ごとの皆さんがイメージを働かせながら、結果としてできたもののはずです。材料を仕入れて作ったものではなく、海藻や田んぼのワラなど、そこにあるもので作った民芸品です。これは芸術だなと思いました。これに関心を持つ芸術家もいます。

 2016年に行ったフィールドワークを通じて、ほかにもないか探してみると、新たな発見がありました。『水』への信仰です。人の生活に欠かせない水や竜のほか、海から流れ着いたものも御神体になったとも聞きました。過酷な作業を伴う職業が多く、医者や学校もない時代の男鹿で、心の支えになったのが神様や仏様だったのだと思います。信じる力が心の糧になっていました。そして、これは現代においても必要なものなのではないかと。これらの新しい発見を生かし、ショートレジデンスプログラム(短期滞在型制作)で生かせないかと考えました。

 昨年は、芸術活動に普段使われていないような場所として、男鹿温泉郷の旅館を使わせてもらい、参加した学生などが制作発表を行いました。音楽イベントと併せて行ったため、(会場の)温泉旅館の社長には心配を掛けましたが、終わってみると、『すごく楽しかったので、またやってもらいたい』と言っていただくことができました。空き家の現状を見て、(空き家を)生かすも殺すも地域の人次第ではありますが、活用の仕方はないか、神社や信仰など地元にあるものを生かして継続的に行えないか、アートがもっと身近になったらいいのにと考えています。

 今年は、ショートレジデンスを行う予定です。音楽との共演も行う影絵アーティストを招く予定です。影絵はシンプルに見えますが、CGと比べても情報量が多いのです。男鹿を題材に作品を残せないか、ライブができないかなどについて話し合っているところです」

秋田美大の「辺境芸術」プロジェクト、始まる 「編集」「批評」の必要性を訴え 秋田美大が「秋田芸術新聞」ゼミナール 編集部員募集 秋田美大のアート事業「アキビプラス」、今年は「辺境芸術編集会議」テーマに AKIBI plus(秋田公立美術大学)

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