秋田経済新聞が、秋田市でまちづくり活動に取り組む市民有志のグループ「AKITA45」(秋田市大町2)と連携して開くオンライントークセッションのアーカイブ。
7回目は、秋田市内に建設が検討されているサッカーJ2「ブラウブリッツ秋田」の拠点となる新スタジアムをテーマに、スタジアムの整備構想策定協議会で専門委員を務めた竹島知憲さんと、同グループメンバーの社会起業家で、前秋田市議会議員の武内伸文さんが対談した。
※この記事は、2021年2月に行った秋田経済新聞主催オンライン対談の内容を基に、一部加筆して再構成したものです。
竹島知憲(たけしまとものり)さん/株式会社料亭濱乃家 代表取締役社長
1954年、秋田市生まれ。秋田市の飲食街・川反(かわばた)で老舗料亭「濱乃家(はまのや)」(大町4)を経営する。多くの分野で地域の活性へ向けた事業に携わるなど、地元経済への造詣が深い。一般社団法人秋田経済同友会常任幹事
武内伸文(たけうちのぶふみ)さん/社会起業家、前秋田市議会議員
1972年、秋田市生まれ。青山学院大学法学部卒、英国カーディフ大学大学院「都市・地域計画学部」修士課程。「組織・人の変革」を専門に外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアなどを経て、2015年から秋田市議会議員。「次世代につながる地域づくり」をテーマに、広範な分野で社会活動に取り組む。
武内 竹島さんは、川反で料亭を経営されていますが、市内の飲食店は大変な状況ですね…。
竹島 当店も開店休業のようなものですよ。今日は、未来へ向けて夢のある話をしたいですね。
武内 そうですね。スタジアムの議論は、今のまちづくりだけではなく、これから先、どのようなまちを作っていくのかを考える上で、象徴的なものです。竹島さんは、アウェーを含めて、多くのサッカー観戦に足を運ばれていらっしゃいますね。竹島さんが専門委員を務められた「新スタジアム整備構想策定協議会」の報告書も拝見しましたが、秋田市内に建設予定のスタジアムについて、さまざまな角度から検討されていました。そもそも、スタジアムが必要なのか否かの議論があって、一つにはスタジアムを作りたいとの考えがあります。この場合、どのような条件がそろえば、地域の皆さんが納得できる施設になるのかを考えたいと思います。
竹島 県外の試合へは、観戦というよりもスタジアムの視察で行きました。協議会の専門委員としては、新スタジアムが秋田の経済をどのようにするのかという問題として捉えて携わり、検討してきました。
武内 スタジアムは、サポーターの皆さんのほか、これに関わるさまざまな業種の事業者もいます。まずは、スタジアムを作ることで、サッカーを軸にした広がりを見込むことができます。私が秋田に帰郷する前に住んでいたイギリスのウェールズには、7万人を収容するスタジアムがありました。試合のある日はユニフォームの色で街が染まるんです。ウェールズの皆さんは、スタジアムの楽しみ方というものをよく知っているんですよ。観戦前に、まちなかで飲食などを楽しむ。それから会場に行って、飲みながら観戦する。試合後は、応援するチームが勝っても負けても、祝勝会や反省会をする。スタジアムは3度おいしいと。秋田もウェールズに負けず劣らず、サッカー観戦を楽しめる可能性を秘めている地域だと思っています。ただ、サッカーの試合は、現状では年間22試合ほどです。
竹島 そうですね。人がいっぱい集まるから、経済効果が生まれるわけです。仙台市の球場などは、球場の周囲に駐車場施設は一切ないんですよ。仙台駅から歩いて球場へ向かい、歩いて駅へ戻る。導線に新たに遊園地を作るなどして、人のにぎわいや交流を生み出しました。秋田のスタジアムもいろいろな楽しみ方、観戦ができるようにしたいですね。
スタジアムというと、サッカーファンの皆さんだけの施設のように思われがちですが、私たちの税金を使う以上、施設として公益性を持たせなければなりません。サッカーの試合向けというだけでは、(通年で見ると)ほとんど使われないことになってしまいますからね。
皆さんに納得いただく施設として建設するためには、さまざまな用途で使える多機能な施設であることが大前提だと考えています。そして、建設後は、公設・民営の形態で運営していくことになるでしょうから、運営を継続できるよう考えたものでなければなりません。そのためには、ビジネス用途でコンベンションに活用したり、高齢者の体育施設として利用したり、秋田の街に合ったスタジアムとはどのようなものなのかについて、よく検証することが重要です。ちょっとした会議などができるようにするだけでも、少しは運営費をまかなうことができます。大学の医学部などと協力して、高齢者運動施設の研究センター機能を設けることで、国の予算を得ることなども考えられるでしょう。サッカー専用施設というのではなく、それ以外の用途で使われる場面が8割なんだと考えていくことが大切です。
武内 Jリーグの基準を満たした競技場だというだけではなく、経済波及効果を見込める施設にということですね。例えば、コンベンションに利用できるようにすることでも県外の皆さんを呼べるようになりますから、交通や宿泊などにも経済効果は波及します。また、長野県松本市は、健康寿命延伸都市として、高齢者の熟年体育大学という仕組みを設けましたが、秋田でも高齢の皆さんも集うことができる拠点があることも大事です。しかし、スタジアムに屋根を設ける場合、今度は建設コスト、運営コスト共、大きくなります。そこで、費用対効果の議論をしっかりする必要もありそうです。
竹島 冬期間、雪に埋もれているだけでは、その間のお金を捨てているようなものですから、この点を検討する必要があります。例えば、屋根を設けるとして、これに40億円ぐらい掛かり増しになるとした場合、この金額が無駄なものなのか、無駄にならないものなのかの議論ですね。
秋田市には、さまざまな分野の全国大会などで、3000人規模のイベントを1カ所で開ける施設がないんですよ。特にコンベンションシステムを備えた施設は全くない。これを専用施設として建てるというのでは、さらに大きな税金が掛かってしまいます。そこで、この機能をスタジアムに持たせられないのだろうかと考えています。
また、高齢者向け運動施設の機能を持たせた場合、天候に関わらず、高齢者が集まって運動ができるためには、これに向いた立地である必要も出てきます。高齢者などは一般に交通弱者ですから、クルマがないと行けないというのでは難しい。公共交通機関を使って動きやすい立地であることが必要です。
このように考えていくと、スタジアムの立地は、やはり、まちなかが望ましいわけです。協議会では3カ所にまで絞り、最終的には、私が所属する経済団体では「八橋(やばせ)」地区が望ましいとの結論にいたりました。市内に及ぼす経済効果が最も大きく見込めるからです。
武内 最初に「スタジアムはどのような使い方をされるべきなのか」との話があって、その上で「適した立地はどこなのか」の順番で考える必要がありますね。
報告書に記載のある3つの候補地以外の新たな立地として、市では外旭川地区の卸売市場周辺を候補とし、新聞などでは、あたかも決まったかのように報道されています。考え方の順番が全く逆転してしまったかのようです。
多くの皆さんが関わるスタジアムを作ろうという目標がある中で、私が疑問に感じるのは、仮に卸売市場周辺に作った場合、誰がどのように使うスタジアムになるのだろうかということです。コンベンションなどのビジネス用途で使えるのか、スタジアムの運営をまかなえるような仕組みが考えられているのか。これらを突き詰めていくと、コンパクトシティというまちづくりのあり方につながりますが、秋田駅前から千秋公園があって、大町・川反の飲食街があって、山王にも飲食街、官公街、ビジネス街があって、そして、八橋にスポーツエリアがある。このような一連の導線を生かすことが望ましいと考えています。
竹島 私たちが答申を出した時点では、外旭川地区の候補の話は一切出てきていませんでした。仮に外旭川地区に建てるのであれば、何のために、どのような目的を持って建てるのかの説明が必要でしょう。
もう1点、大事なことは、八橋地区にある秋田県立体育館の建て直しが既に決まっていることです。これは5年ほど先がめどになりますが、プロバスケットボールチームのアリーナにとの議論もあります。そうすると、サッカースタジアムができるのは7年後ぐらいとすれば、体育館とは2年ぐらいの期間の差しかなく、それぞれが巨額の投資をするということであれば、秋田の財産をどのように生かしていくのかについて、しっかり議論することが大切です。
これだけの運動公園がそろっている官庁街というのは、全国でも珍しいんですよ。これを磨いていくことは、秋田市の一つの財産になるのではないでしょうか。
武内 県と市が連携して考えることも重要です。ところで、最近は芝を敷いたフィールドを浮かせて、屋根にすることができる昇降式ピッチのスタジアムもあるようです。これは漁船を釣り上げるリールの技術を応用しているとのことですが、1~2時間もあれば設置が完了します。
竹島 例えば、ドーム式の場合、開け閉めだけで1回100万円掛かるものもあるそうですが。
武内 昇降式は、その10分の1ほどで済むそうです。Jリーグは、天然芝であることも大切にしていますが、この仕組みだと、常に芝生に日光が当たる状態を保つことができます。また、芝生のあるピッチを上げることで、下から現れるスペースは芝である必要がないため、コンベンションなどの用途にも使いやすそうです。国内でこれを採用したスタジアムは、まだないのですが、Jリーグのチェアマンもネット動画で関心を示していらっしゃいました。では、秋田でやってみようと手を挙げることは、多くの方人々が関わる「稼げるスタジアム」という観点からも有効かと思います。
竹島 秋田市という地方都市に、サッカースタジアムは必要です。そして、これをいかに使うのかを、県民・市民・行政の皆さんで、うまく考えていかなければいけません。やはり、コンパクトシティを目指す形になりますが、分散型ではなく、集中型のまちづくりを考えたスタジアムであってもらいたいのです。今は、この視点がちょっと抜けているように感じられます。
私も会社を経営していますが、お金をつぎ込むときは、先のことまで考えるわけです。「何かがあるから何かをやる」というだけのことではないはずです。
武内 立地については、いろいろな観点から比較をすることが必要ですね。私はブラウブリッツ秋田を応援していますので、もちろん、サッカーの試合を観る視点からもスタジアムを考えています。もう一つの視点として、スタジアムを使ったまちづくり、将来のまちの形につなげたいとの思いがあります。
コロナ禍で飲食店などの商店が苦境にある中、スタジアムと連動したまちづくりを推し進めることで老舗も魅力あるまま残ってほしい。また、今の秋田はクルマ社会ですが、進む高齢化社会に合わせて、スタジアムと公共交通については同時並行して考えなければならない。そのように重要な判断につながる局面だと思います。
投資して回収するまでのプロセスから、直ちに効果が出るものではありませんが、先を見越して、まち全体の売上や収益につなげるための軸として、やはり立地は重要です。
竹島 誰もが交通弱者になっていきますから。これからの秋田市に夢を持たせていただければありがたいです。若者はスタジアムを求めていますから。
――ありがとうございました。