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秋田を「自転車にやさしいまち」に~S arrow akita

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質実剛健なオーダーメード自転車として人気のアロートレイディング社製品の東北唯一の取扱店「S arrow akita」が由利本荘市から秋田市に移転して1年。モノとしての自転車の魅力とサイクリングイベントを通じ、「秋田を楽しい街にしたい」と活動する同店オーナーの佐々木泰作さんに話を聞いた。

アロー自転車の「のれん分け」1号店に

-本荘から秋田に店舗を移して1年になりましたね

佐々木「4月で1周年を迎えました。秋田市の店舗も初めのころは、自転車に興味がある人に来店いただいていましたが、最近では近所のおばあちゃんや子どもたちにも『まちの自転車屋』的に受け入れてもらえているようです。うちは狭い店舗に自転車のほかファッショングッズも扱っているので、当初は近所の人たちも、ここが何屋かわからなかったみたいです(笑)」

-自転車店を始めたきっかけについて教えてください

佐々木「実家のある本荘市(現・由利本荘市)で27歳の時に開業しました。2003年からなので今年で5年目になります。そもそもは、自分が自転車が欲しいと思ったことがきっかけでしたが、なかなか気に入る自転車が見つからなかった。そんな中で出会ったのがアロー自転車(以下、アロー)で、一目ぼれでした(笑)。そして、この自転車を自分でも広めたいと思ったんです」

-なるほど。もともと自転車が好きだったんですか?

佐々木「札幌で過ごした学生時代は、スキーに行く時なんかクルマを使っていたし、自転車を日常的に使っていたのは高校生のころまで。普通に(笑)。アローに出会ってから、こういうカラフルな自転車が街を走りだしたら楽しいだろうなと思うようになったんです。アローは、実際にお客さんに乗ってもらってから購入していただくタイプの自転車なのですが、ちょうどメーカーも試乗できる店舗を欲しがっていた。今では高円寺や横浜などにも店舗がありますが、秋田が『のれん分け』1号店なんです。だから、実験的な側面もありましたね。『東京自転車』とでもいうような『まち乗り』向けのアローが、他の大都市を飛び越えて秋田に登場するのは面白いのではないかと(笑)」

アロー自転車と「まちの自転車店」

-アロー自転車について教えてください

佐々木「アローは、1972年に東京の山田甚兵衛が虚飾を排したシンプルな自転車として開発したものです。ユーザーの好みや予算でオーダーメードで組み立てたり、ほとんどの部品を日本製にこだわっていることが特徴です。革製サドルだけは国内で作れる所が無くなってしまったので輸入しています」

-シンプルだけどファッショナブルなデザインですね

佐々木「フレームの色を18色から選べるほか、好みでハンドルの形状も選べます。秋田限定色もあるんですよ。あと、『ハンドブレーキ』が付いてないことも特徴です。特に小さな子どもはブレーキを握る動作が完全じゃないから、ハンドブレーキよりもペダルのブレーキの方が安全なんですよ。結果的にシンプルで機能性のあるデザインになっていて、子ども用のアローはヨーロッパではデザイン教育のケーススタディーにも使われているようです」

-ところで、市内の自転車店の現状はどうですか?

佐々木「個人の自転車店は、販売台数では価格の安いホームセンターにどうしたってかなわないんです。だから、これまで秋田にもたくさんあった自転車店の店主は、ほとんど二代目を置かないで廃業されることが多いようです。昔のように『近所の自転車屋』というだけでは経営は難しいのが現状ですね」

-アローの売れ行きはいかがですか?

佐々木「うーん…何とか飲みに行くぐらいは(笑)。アローが認知されるのに時間がかかることはわかっていました。わかっていてもきついと思うこともありますが(笑)、バイトしながら頑張って、3~4年目ぐらいからは知名度も上がってきたところです」

-自転車店の役割もあるように思いますが?

佐々木「そうですね。何でも安い方がいいという意識を否定するのではないけれど、僕の目から見た安い自転車は、痛々しいくらいのモノなんです。だから、大切にされないで放置されてしまうこともあるのでは。そういう意味で、モノを大切にするための値段というものがあるようにも思います。自転車にも『幅』があることを知ってほしいですね。僕が子どものころなんかは、まちの自転車屋さんに入り浸って見ていましたよ(笑)。特に子どもにとっての自転車は、すごく魅力的な面白いもので、アローの店舗では『モノとして魅力のある自転車もあるんだよ』ということを提案したい。あとは、パンクなどの修理も自転車店の役割ですね。倉庫から引っ張り出してきたようなさびた古い自転車の修理を持ち込まれることもあります。でも、10年以上前の古い自転車は質がいいんですよ。商売としては『うちの自転車を買って』というのもあるけど(笑)、そういう古くても良い自転車を直しながら乗るのもいいですね。色を塗りなおしたりして楽しむこともできます」

秋田への移転とサイクリングイベント

-本荘から秋田に移転するきっかけは何でしたか?

佐々木「本荘には大きな会社が少ないこともあって、通勤に自転車を使う人は限られていました。そのため、当時から地元の人よりも秋田市や県外からクルマで来店されるお客さんが多かったんですよ。自転車を買うためにクルマを使われるなら、逆に店舗を移転してしまおうと(笑)。自転車仲間も秋田に集中していたし、タイミングよく多くの人に出会えて、ツーリングイベントにしても秋田ではフットワークよく開催できます。そんな折、ちょうど秋田に面白い空き店舗が見つかったので移転を決めました。今は本荘の自宅から秋田まで電車で通っています」

-移転には自転車仲間の協力もありましたか?

佐々木「そうですね。秋田に移転するちょっと前の2006年の秋に、秋田市内で『おでん』を食べて回ろうという自転車イベントがあったんですよ。『ツール・ド・オデン』という(笑)。面白い人が集まっていて、楽しんで乗っている人たちがいる。自転車っていいなと改めて思いました。そういう仲間に気持ちを後押しされた部分もあります」

-佐々木さんは、サイクリングイベントも盛んに開催していますね

佐々木「東京や京都で開催される自転車のイベントに参加することもありますが、『東京は楽しかったな』で終わるのではなく、『秋田でもやる』という気持ちでやっています。県外の人からも『秋田で何かやってるな?』と見てもらえるような(笑)。実際に夜のサイクリングイベント『キャンドルナイト・クルージング』の開催のほか、今年は雄物川の屋形船を使った企画や、車道を走る練習イベントなども検討しています。昨年は女性だけのサイクリングチーム『チャリズエンジェル』も生まれましたが(笑)、面白い人が多いんですよ。自転車は友だちが友だちを誘って仲間が増えていく魅力もありますが、イベントは単発でやっても忘れられてしまうものなので、継続することが大切です。だから、自転車仲間がイベントをやろうとしたとき、うちとしてもサポートしていければいいなと。自転車って趣味としてはマイナーな部分もあるので、いっぱい楽しいことをやって、その中から何かつかめればと思っています」

-イベントで何か気をつけていることはありますか?

佐々木「仲間内だけでやっているということではなくて、誰でも気軽に参加できるウエルカムの環境を作っていくことですね。うちのお客さんは女性の方が多いのですが、女性は自転車店に入るのに勇気がいるようなんです。雄和地区あたりまでのサイクリングは普通のママチャリでも行けるので、いっしょに楽しんでもらえればと思っています」

-今月から開催している「Bike to Work」が注目されていますね

佐々木「マラソンの給水所のような『エナジーステーション』を通勤路に設置して、自転車で通勤する人を応援しようというのが『Bike to Work』です。これは、自転車から出る廃材などに注目してエコやファッションに取り組んでいる『バイシクルエコロジージャパン』という東京のNPOが数年前に始めたイベントですが、今年は、名古屋、金沢、大阪など7都市でも同時開催しています。秋田でも好評だった5月に続いて、6月19日と7月17日にも開催する予定です。東京では大手のメーカーも協賛する動きがあるようです」

自転車は「ライフスタイル雑貨」

-最近、秋田市内でもおしゃれな自転車に乗っている人が増えましたね

佐々木「秋田はクルマ社会なので、誰でも1度はクルマ中心の生活になりますが、今の若者は昔のようにクルマにお金をかけなくなってきているようです。その分、ファッションにはかけているようですが、これまでの自転車をファッションとしてみると、ユーザーの興味を引く魅力に乏しかったように思うんですよ。最近はファッション誌なども自転車を取り上げることが増えるなど、ファッションスタイルの中に自転車を組み込んでいくという流れがあります。昨年は、札幌にもアローを扱う洋服と自転車の店ができました。弊店でも秋田のクリエーターがデザイン・製作したバッグなどのオリジナルグッズも扱っていますが、自転車をライフスタイル雑貨のような位置付けで提案していければと思います。実際、自転車に乗っている女性はしゃれた雰囲気の人も多くて、『健康や地球にやさしい乗り物』という部分は、ファッションの先にあるものとしてPRできればいいかもしれないですね」

秋田市を「自転車のまち」に

-具体的にどのように自転車をPRしていきますか?

佐々木「自転車が自由な乗り物であるのはいいのですが、自転車も車両としてのルールがあるので、マスに対するアプローチも考えなければと思っています。警察が配っている教本というだけではなく、特にマナーなんですけど…。それから、自転車は実用や遊びに使えるということだけではなくて、安全な乗り物でなければならないので、ランプなどの安全装置もかわいいものを提案できれば。あと、『ヘルメット普及委員会』ですね(笑)。そうそう。ちょうど今年、国土交通省と警察庁が自転車通行環境整備の模範にするモデル地区として98カ所を発表したのですが、その中で秋田市も指定されました。大都市よりも人口が30万人の秋田ぐらいが模範として変わりやすいと思うので、モデル地区になったことは面白いのではないかと注目しています」

-自転車で秋田はどのように変わると思いますか?

佐々木「秋田は、自転車が『使える』まちだと思います。東京の自転車ファンなら、10~20キロぐらいは自転車で当たり前に移動しますが、秋田市の中心部から半径10キロを考えれば、かなり広いエリアをカバーできるんですよ。特に中通り地区などの中心街区は自転車に適した場所だと思いますが、『まち』という観点からは、自転車を『まちのツール』として見ることもできます。僕は、秋田は自転車生活に戻れる場所だと思っています。『秋田は自転車にやさしいまち』ということになれば、それは『環境にやさしいまち』ということにもなるわけで、全国から見ても魅力的な秋田のイメージになるんじゃないかな。そういった動きをサポートしていければと思っています。うまくいけばうちの自転車も、みたいな(笑)」

-ありがとうございました。

「S arrow akita」の佐々木泰作さん

【取材を終えて】自転車と秋田の魅力について、明るく楽しそうに話す佐々木さん。実用を超え、自転車を「ファッションアイテム」「まちのツール」と位置づけ、ユニークなツーリングイベントを企画することで、着実に自転車ファンを獲得している。「自転車にやさしいまち」として、秋田のイメージアップにつながっていくことを期待したい。


S arrow akita(アロー秋田)S arrow akita blog自転車「ヤマジンモデル」、関東以北唯一の取扱店が秋田に移転(秋田経済新聞)秋田「チャリズエンジェル」に新ミッション(秋田経済新聞)秋田で自転車通勤者を応援するイベント-拠点設けドリンクなど提供(秋田経済新聞)

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