特集

秋田を世界の文化交差点に~「踊る。秋田」芸術監督・山川三太さん

  • 1

  •  

モダンダンスの先覚者・石井漠(ばく)と、日本独自の身体表現「舞踏=BUTOH」の創始者として世界的に知られる土方巽(たつみ)の出身地、秋田を「舞踊・舞踏の聖地に」と、両氏を顕彰する国際フェスティバル「踊る。秋田」が秋田市内で開かれている。開催10回を数える同イベントで芸術監督を務める山川三太さんに話を聞いた。

山川三太

山川三太(「踊る。秋田」芸術監督)
1953(昭和28)年、秋田市生まれ。秋田高校を中退後、1972(昭和47)年に上京し、俳優養成所に入所。卒業後、劇団を旗揚げし劇作家、演出家、俳優として活動。2015(平成27)年、官民で組織する「踊る。秋田」実行委員会の委託を受け、フェスティバル・ディレクターに就任。同時に、一般社団法人PAL(秋田市卸町5)を創設。著書に戯曲集「褸骨の指輪」、ノンフィクション「白鳥の湖伝説 小牧正英とバレエの時代」など。

国際舞台芸術祭「踊る。秋田」

― 「踊る。秋田」について教えてください

 2015(平成27)年のプレイベントを皮切りに、毎年、世界数カ国からトップダンサーを招へいして、秋田市内の会場を中心に開催する国際フェスティバルです。当初は、コンテンポラリーダンスを軸に「国際ダンスフェスティバル」として運営してきましたが、昨年からは演劇も加え、「国際舞台芸術祭」として開催しています。また、毎年秋の開催を通年開催に変更し、今年度は春と秋、そして、1月31日~2月8日をメインイベント期間に位置づけて準備を進めています。今年は、イギリスやフランス、スペイン、ラオス、シンガポールなど世界のトップダンサー10組を招へいするほか、国内公募にエントリーしてきた37組中から既成のダンス概念を打破しようとした石井漠や土方巽のような意思の感じられる5組を選び招へいします。合わせて演劇の公演も行います。

― この10年でどのような変化がありましたか?

 コンテンポラリーダンス界における「踊る。秋田」への注目、特にヨーロッパを中心とした海外からは、想像以上に高い評価を受けるようになりました。開催地の秋田が、石井漠や土方巽の出身地で、函館市出身の舞踏家・大野一雄が育った地でもあることは、海外のディレクターやプロデューサーであれば誰もが知っています。野球のメジャーリーグに例えれば、野茂英雄さんやイチローさん、大谷翔平選手を一地域から排出したようなものですからね。国内で最大規模のダンスフェスティバルは、横浜市で開かれる「ヨコハマダンスコレクション」ですが、「踊る。秋田」に出演したいとのダンサーもすごく増えました。今では、毎月のように各国のダンサーから招へい依頼の動画が送られてくるようになりました。

山川三太

― 秋田での認知はどうでしょう?

 海外での評価が高まる一方、秋田での認知はまだまだ…。なかなかギャップを埋められないでいます。地元の皆さんは「秋田には何もない」と言うことが多いのですが、世界各国のダンサーは東京へ行きたいとは思っていないんですよ。首都の様子は世界各国であまり変わらないですから。来秋したダンサーの皆さんは、まず、秋田の四季の美しさに驚きます。秋の紅葉や広い空、美しい田んぼ、森の雰囲気…。冬は雪や白鳥を見ることが喜ばれます。秋田では当たり前に見ることができる白鳥を見た皆さんは、それはもう感動していますよ。空を飛ぶ白鳥の姿は、国内でも限られた地域でしか見ることができませんからね。私自身は2021年に東京から帰郷して、舞台を中心とした事業に取り組んでいます。地元の皆さんにも、秋田が舞踊・舞踏の聖地であることをしっかり伝えていきたいですね。

秋田の文化を育てる拠点に 「アートボックス卸町」

アートボックス卸町(秋田市)

― 「踊る。秋田」に演劇が加わりました

 馴染みのない人にとっては、コンテンポラリーダンスは難しいとか、分からないとか、ハードルを高く感じられやすいんです。でも、演劇は、こののハードルが低いんですよ。例えば、2024年1月に東京で注目の劇団「うさぎストライプ」の秋田公演がありました。たまたま私が東京で同劇団の芝居を観たときに「これは秋田の皆さんにも観てもらいたい」と思い、「踊る。秋田」とは別のの企画として個人的に呼んだんです。秋田の皆さんにはほとんど知られていない劇団だからと、2日間で100人程度の動員を目標に企画したのですが、蓋を開けてみれば200人もの皆さんが足を運んでくれました。アンケート結果も驚くほど好評でした。同じ舞台でも芝居であれば多くの皆さんに足を運んでもらえるんだと気付かされたんです。演劇鑑賞をきっかけに、ダンスにも関心を寄せてもらいたいとプログラムに加えました。

― 「踊る。秋田」の会場も運営されていますね

 東京でもなかなかないレベルの「ブラックボックス型小劇場」(舞台と客席が同一空間にある黒い内装の小劇場)として、秋田市卸町に作ったのが「アートボックス卸町」です。間口14.5メートル、奥行き7メートル、高さ4.5メートルの舞台に99席の客席を設けた劇場です。かつての小劇場は、東京だけでなく地方公演も積極的に行っていましたが、今の若い劇団は地方を回らなくなりました。その大きな理由の一つが公演会場の問題です。昔の小劇場の公演は、テント劇場や野外公演、大学のキャンパスなど縦横無尽に暴れ回っていました(笑)。ところが、今の若手劇団の公演は小ホールでの公演がほとんどです。地方の公共劇場で公演するとなれば、1年前からの予約が必要です。その点、当施設のような空間があれば、若手の劇団も地方で公演しやすくなります。ダンスのみならず、全国的に評価の高い演劇を秋田の皆さんに観てもらえるんですよ。東京まで行って芝居を観るのは大変ですが、当施設があれば、演劇に携わる若い皆さんにも評価の高い演技を観てもらえます。そこで得た刺激を自分たちの演劇に落とし込んでもらえるかもしれない。これは本当に大切なことです。

アートボックス卸町(秋田市)

― さまざまな形で活用できそうな施設です

 北九州市小倉の「北九州芸術劇場」では1年に1回、東京で活動する俳優と地元の俳優が一緒に芝居を作るプログラムを持っていますが、当施設でも同様の取り組みを始めています。5月には、東京で活動する俳優2人と秋田のアマチュア俳優1人の3人芝居を上演する予定です。これは私の演出作品で、東京の俳優は秋田に1カ月ほど滞在します。その間に秋田市民を対象としたワークショップも開きます。このようなことができるのも当施設があればこそです。 先日、「あきた芸術劇場ミルハス」のような公立劇場を統括している公益財団法人「全国公立文化施設協会」から、子ども向けワークショップの開催を委託されました。3月8日、18歳以下を対象にヒップホップダンスのワークショップを開催します。また、秋田市内の高校からは、複数校の合同公演の会場に使いたいとの相談を受けました。こちらも3月末の開催を予定しています。当施設を高校生に使ってもらうことは、本当に理想的なことなんです。当施設の舞台には、世界各国のトップダンサーが立ちますし、東京で注目の高い劇団がワークショップを開くこともあります。これらに若い皆さんが触れ、体験する機会を増やすことは、秋田の文化を育てるうえで大切なことです。現在、当施設が法律上の劇場として認可されるよう働きかけているところです。

ダンスで秋田を世界の文化交差点に

― 「秋田を世界の文化交差点に」とのスローガンを掲げていますね

 1980(昭和55)年、国内では十分な動員ができなかった日本の舞踏集団「山海塾」が、パリに渡りました。当地では数万人を動員するほど大変な好評を博しました。この様子を見た「パリ市立劇場」が、全ての制作経費を負担する代わりに、2年に1本の新作を作り、同劇場で世界初演を行った後、2年間の世界ツアーに出るという契約を山海塾に持ちかけました。この契約は30年以上にわたり続いたのですが、その結果、今や山海塾はパリの舞踏団体、文化財産として認知されています。かつて、哲学、文学、演劇、ダンスなど、さまざまな芸術分野で世界をリードし、文化の都と呼ばれていたパリが、自国の文化の衰退を認識した上で採用したこのような取り組みによって、今でも世界の文化をリードする都市として認知されているわけです。こうした手法を「パリ方式」と呼んでいますが、同様のことを秋田でもできるのではないかと考えています。

 具体的には、2021年に開設したゲストハウスとダンススタジオを活用して、海外のダンサーを秋田に呼び、数週間滞在してもらって作品を作る「アーティスト・イン・レジデンス=AIR(エアー)」に取り組んでいます。ちょうど現在、東京と韓国のダンサーが秋田に滞在して作品を作っています。本当に才能のある若手が、秋田で作った作品を「アートボックス卸町」で世界初演してから世界ツアーに出ていき、これが秋田の文化財産として認知されていく。これは凄いことでしょう。

 歴史的に見て、交易が盛んな地には人が集まり、さまざまな文化が交差して、にぎわいも生まれます。大切なのは、秋田に何があるかではなく、秋田に誰が来て、何を作るかなんです。秋田が「世界の文化交差点」であれば、「秋田に行けば何か面白いことがある」と、世界から足を運んでもらえるはずです。「踊る。秋田」や「アートボックス卸町」が、秋田から世界につながる拠点にとの思いで取り組んでいます。

― ありがとうございました

山川三太

国際舞台芸術祭「踊る。秋田」 Vol.10

期間:2026年1月31日(日)~2月1日(月)、6日(金)~8日(日)
会場:アートボックス卸町(秋田市卸町5-16-29

踊る。秋田

一般社団法人PAL(パフォーミングアーツ・ラボラトリー)
秋田市卸町5-16-29 アートボックス卸町 内
TEL:018-874-9037

  • はてなブックマークに追加

ピックアップ

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース