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すきかちっ Vol.3/ウタトエスタジオ #03

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記事提供:すきかちっ

秋田県出身のシンガーソングライター渡部絢也さんと愛媛県出身のイラストレーターいせきあいさんによる制作ユニット「ウタトエスタジオ(Utatoe Studio)」。歌と絵を組み合わせたライブパフォーマンス、絵本やミュージックアニメ、テレビCMなど、様々なコンテンツを共同制作している。今回は2017年から2018年にかけて開催された『歌と絵のライブツアー』と、そのライブツアー開催のために行ったクラウドファンディングの裏話に迫る。

クラウドファンディングを活用して見えたこと

Matirog「秋田県内9カ所10公演の『歌と絵のライブツアー』開催の際に、クラウドファンディングを活用したお話を前回チラッとされましたが、どのような経緯があったのかを教えていただけますか?」

渡部「昨年2月の時点で、歌と絵のライブ活動を本格的に始めてから丸2年が経ちました。たくさんの子どもたちが喜んでくれていると現場では実感したものの、僕たちのライブ活動そのものはまだまだ認知されていませんでした。より多くの人に知ってもらうために、ライブの様子を写真もあわせてSNSで公開しようとも思いましたが、子どもたちの写真を載せることは、個人情報にもかかわるため困難です。それではどうするか…と2人で話し合い、各地の幼稚園や保育園へ直接回ってライブを行うことも一つの方法でしたが、自主企画として大人を含め興味のある人なら誰でも参加できる『歌と絵のライブツアー』を開催しようと思い立ちました。しかし、ツアーを組むとなると、会場費やチラシなどのコストがかかってしまい、実現はなかなか難しいため、賛同して下さる方々に資金を募って一緒に作り上げていけるクラウドファンディングを活用することにしました」

Matirog「クラウドファンディングは大衆からお金を募る方法ですが、リターンの発生しない『寄付型』と、リターンとして配当や利益の一部を得る『投資型』、リターンとして商品やサービスを受け取ることができる事前購入の『購入型』がありますよね。お二人はどのタイプを利用されたんですか?」

渡部「僕たちが利用したのは、リターンとして事前に商品を購入してもらう『購入型』です」

Matirog「商品を考えるのは大変だったんじゃないですか?」

いせき「リターンとしての商品アイデアを出している段階では、この商品なら喜んでもらえそう!と楽しんでいたのですが、実際作るのはとても大変でしたね。皆さんが買ってくれたお金でライブ活動が実現できることを思うと、商品と一緒に私たちの思いもきちんと届けたいですしね」

Matirog「僕も支援者としてお二人の商品を購入させていただきましたが、しっかり思いがこもっていましたよ!あいさんが僕のために描いてくれたオンリーワンの絵には感激しました。クラウドファンディングは単に資金集めのためだけではなく、応援者の一人でありながらも、みんなで一緒に何かを作り上げていくので、よりそのプロジェクトに参加している気持ちになりますよね」

渡部「そうですね。一体感がありますよね。例えば、『歌と絵のライブ』を岩手県盛岡市で開催する際に、盛岡限定グッズを作ったとします。僕たちのウェブサイトで限定グッズにあらかじめその地域でのライブ開催費用を上乗せしている旨を明示したうえで販売すると、それはクラウドファンディングになりますよね。資金を集める方法はクラウドファンディングに頼らずとも、いろんな形でできるんじゃないかなと、いせきとも話してました」

Matirog「この先クラウドファンディングを活用しようと考えている方に、なにかアドバイスはありますか?」

渡部「活用してみて初めて分かることがたくさんあります。ビジネスの基本として、PDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善する)のサイクルが必要ですが、まず、最初のプランを立てるのに苦労しました。僕たちのパターンでいえば、具体的な数字から考えて、秋田県の10カ所で各会場200人ずつ、合計2000人を動員する目標を立てました。子どもだけで来ることは想定しにくいので、最低でも子ども1人につき保護者1人とすると、子どもと保護者がそれぞれ1000人ずつ来場する計算になります。秋田県に6歳以下の子どもは4万人いますが、その内の子ども1000人の集客なら可能性があるのではと思ったんです」

Matirog「さすが、数学が得意な絢也さん!計算が早いですね!」

渡部「皆さんのおかげでクラウドファンディングが無事達成したわけですが、その後実行に移すのも想定以上に大変でした。秋田県内を巡って会場を探したり、良い会場があっても日時の都合がつかなかったりしました。会場の予約が済んだ後はポスターやチラシを作り、各市町村にある320件ほどの幼稚園、保育園に直接チラシを配って回りました。スタジオに3万5000部のチラシがダンボールにドドンと届いたのは衝撃でしたね。単純に、多いな!と(笑)。今回の取組のおかげで、今後自分たちが自己資金でライブをする場合の目標が立てやすくなりましたし、集客を図るためにチラシ以外の方法も併用する必要があると、実感しました。反省点としては、大きなツアーを組んだためPDC(計画、実行、評価)をうまく連携させられず、応援してくださった方へのフィードバックに時間がかかってしまったことです。これで終わりにせず、A(改善)して次につなげたいです」

Matirog「絢也さん、経営者の顔になってます! PDCAも一度やってみないと見えてこないんですね」

渡部「諸々の経費の関係で無料開催は厳しいですが、今回のツアーから学んだことを生かして企画すれば、次からは自己資金での開催もできるかもしれませんね」

無尽蔵なエネルギーで取り組む

Matirog「活動する上で、資金面はもちろんのこと、それにかかる時間や体力、精神面でもエネルギーを消費しますよね。活動する上でのエネルギー源についてお話しいただこうと思います。まずは、お二人は一日の労働時間は決めていますか?」

いせき「だいたいの目標時間は設定していますが、実際は制作に入ると休みなく続けてしまいます。2017年11月に発売した絵本『とびだせ!ちんあなご!ゆうえんちはおおさわぎ』の制作の時はほぼ休みなく描かないと間に合わなかったというのもありますが、2016年後半の冬に作業を始めて、年が明けて春になったかなと思ったら、夏秋の記憶がない状態でまた冬を迎えたような気がします(笑)」

Matirog「確かに、昨年の夏秋は、あいさんを見かけませんでしたよ。夏秋の記憶が抜けるほど没頭していたんですね」

いせき「作業場から一切出ていませんでしたから…。今後改めようと思っています」

渡部「絵本の制作が終わった翌月くらいから『歌と絵のライブツアー』のチラシ配りを始め、同時にクラウドファンディングのリターン商品の制作も重なったこともあり、昨年は2人ともエネルギーが枯渇しがちでした。結果的に、3月には二人とも寝込んでましたからね(苦笑)」

いせき「この仕事を長くやっていきたいので昨年1年間の仕事の仕方を振り返って、体調を崩すほどの働き方はダメだと感じました。まさに身を以て自己管理の大切さを知りましたね」

Matirog「僕もファイオンエンターテインメントを法人化するにあたって、人に頼める仕事と自分でやりたい仕事の線引きを見極めながら、頼める仕事はどんどん頼んでいこうと切り替えました。そうしないと仕事が回りません。例えば、漫画家さんは色塗りをアシスタントに頼んだりしていますが、あいさんは絵本を制作する際に作業の分担はお考えになったりしますか?」

いせき「現状、イラストを描く作業に関しては1人で出来ていますが、事務的な仕事や営業活動、プロモーション活動で協力できる人がいたらいいなとは思います。こうしたことも、昨年を振り返ってようやく考えられるようになりました」

Matirog「僕自身、文章を書くことが苦手なので、その作業はできる人に任せています。そうすることにより生まれた時間で企画を考えたり、クライアントと打ち合わせをしたりしています。しかし、あいさんの絵の特徴は、あいさんにしか生み出せませんから、人に任せるのは難しいですよね。絢也さんも作詞作曲からアレンジ、レコーディングなど音楽活動の全てをご自身でこなしていますよね」

渡部「そうですね。でも、1人だけで音楽活動をしていると見えてこない部分もあって。例えば、最近ようやく気がつくことができたのですが、ぼくは今までリズムのとり方に関して意識が薄かったなぁ、と」

Matirog「そうですか?!『勇者マンボウ』の歌はノリノリじゃないですか!」

渡部「ありがとうございます(笑)。洋楽を聴くとリズミカルで音に乗れますが、僕自身の曲を聴くとリズムが平坦で乗りづらい気がして。バンドを組んで自分以外の演奏者とライブをすると、自分の演奏とかみ合う時とかみ合わない時がありました。なぜだろうと考えた結果、拍の表だけでリズムを取っていたからなんですね。リズム感のある人は、表と裏、あるいは裏の裏まで感じながら演奏しているんです。弾き語りでは、自分の時間感覚の中で演奏するので、リズムへの意識が低くなっていたのかなぁ、と。どちらかというとコード、メロディー、歌詞に重きを置いて音楽制作していましたが、今はリズムへの意識が必要だと痛感し、自分の音楽を見直しているところです。ようやくここから僕の音楽、そして人生が始まる!という新鮮な気持ちですね」

Matirog「クリエーターは無尽蔵なエネルギーと繋がることができる瞬間がありますからね。これからも作品のブラッシュアップに期待していますよ!絢也さんがアルバム制作に取り組む様子は、あいさんの目にはどのように映りますか?」

いせき「ひたすら没頭していますね。ある程度一人になる時間が必要で、それが制作のエネルギーに変わっているように感じます」

渡部「いせきは、日常的に没頭するゾーン(極限の集中状態)がありますよね。絵本制作や広告のカットイラストの仕事など、どの仕事においてもその作品の世界に入り込み制作に没頭しています」

Matirog「仕事に入り込むために、何かコツはあるんですか?」

いせき「早くしないと納期に間に合わない!と自分を追い込むことが多いのですが、かえって緊張感のある中でイラストを描いているほうが、私らしいふわっとした作品になるようです。楽しい歌に合わせたイラストを見ると、ルンルンと楽しそうに描いている姿をイメージされるかもしれませんが、実際は殺伐と作業してることが多かったりします(笑)。もっといいもの、もっと伝わるもの、見る人がどう感じるのかなど、いろいろなことを考えながら描いていますから」

クオリティーを保つためにも、自分の時間を確保する

Matirog「あいさんは、締め切りがあったほうが仕事しやすいようですが、自分で締め切りの設定を決められるときは、どの程度の期間を設けていますか?」

いせき「実際は3日間で制作できるとしても、イラストを描き始めるまでに構想を練る期間が必要です。その間は24時間考えていますから、自分で納期を決められるときは、実際の作業期間の倍か、それ以上の日数を予測して伝えています。最初のころは構想期間を含まず実際の作業時間ギリギリに納期を設定してしまって辛かったこともありましたが、最近ではようやくタイムマネジメントもできるようになってきました。今は複数の依頼でも、クオリティを落とさずに同時進行で作業が出来ていると思います」

Matirog「1日の中で『朝にはこれをして、昼にはこれをする』というように、時間毎にタスクを振り分けていますか?」

いせき「朝昼晩と分けて仕事に取り組みたいのですが、仕事の種類によってはうまくできないこともあります。例えば、ラフを元に制作するのは予定通りに進められることも多いですが、0から1を生み出すラフ作りなどには、ひらめきが必要になることもあり、予定通りに仕事が進まないこともあります」

渡部「音楽制作では、元のアイデアを作るよりもアレンジ作業に時間がかかることが多いです。僕の場合はアレンジにひらめきを必要とする部分が多いからかもしれません。0から1を生み出す作業は時間がかかりますし、その時の身体の状態や気分も関係するので、予定通りに進まないことが多いですね」

Matirog「アーティストは集中力の波次第で仕事のはかどり具合が変化するので、この時間と決めて取り組むのはなかなか難しいのだと思います。仕事モードをオンにするスイッチがあると便利ですよね」

いせき「最近、自分のスイッチはどこにあるのかを探したところ、予定していた時間にきちんと起きて、自分のための時間をしっかり取ってから仕事を始めるとスムーズに仕事に取り掛かれることに気が付きました。やはり、1日のスタートがうまくいかずルーティンが崩れると、波に乗れないときも多いです」

渡部「僕たちの場合、早朝にライブ会場に入る必要があったり、制作物の納期のため深夜に仕事をしてしまったりと、1日のリズムが崩れてしまうこともあります。本当はしっかり毎日決まった時間で1日をスタートさせたいのですが、現実的にはなかなか難しいですね」

Matirog「極端な例ですが、知り合いのアーティストで、依頼を受けた段階で『納期はいつになるかわかりません』とクライアントに伝える方を知っています。ある意味一つの手段だと思いますが、それが実現できるには、自分の作品を時間がかかっても待っていてくれるファンからの厚い信頼が必要となりますよね」

渡部「僕たちの場合、同時進行でたくさんの仕事を受けているので、クライアントに状況を理解してもらうところから始めないといけませんね。クリエーターサイドも、クライアントに対してきちんと抱えている仕事のボリュームを伝えるような働きかけも必要だと感じます。そして、クオリティーの高い商品をクライアントへ渡すことができるよう、自身の最低限の生活リズムを確保することも大事だと思っています」

Matirog「そのためにも、早起きをして『レッツアナゴサイズ』ですね!」

★次回~渡部絢也さん&いせきあいさんの『あなたの「好き」を価値に変えるヒントvol.3-#4』は、6月4日に配信予定です!お楽しみに!

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すきかちっ(Phiomn)